Netflix映画「ちひろさん」 (c)2023
Netflix映画「ちひろさん」 (c)2023 Asmik Ace, Inc. (c)安田弘之(秋田書店)2014

今泉:「ちひろじゃなくて、ずっとちひろさんって呼んでいる感覚」って言ってましたよね。それを聞いて、難しかったのかなあと。どういう感じだったのかなって気になっていました。

有村:ちひろさんって、どうしても客観的に見てしまうんです。

今泉:それはすごすぎるってこと?

有村:はい。ちひろさんの存在がすごすぎて、「ちひろ」ではなく「ちひろさん」って言ってしまう。役名をずっとさん付けで呼んでしまうのは初めて。

今泉:ははは。

有村:でも、それでよかったのかなとも思いました。わかりすぎると、人間になりすぎちゃう。ちひろさんは幽霊みたいな存在であらねばならないみたいなのが自分のなかにあって。きっとちひろさんと私の距離感はこれぐらいがちょうどよかったのかなって思うようにしています(笑)。

■だらしなく生きていい

――二人がタッグを組むのは、2020年3月からWOWOWで放送された「有村架純の撮休」以来だ。

有村:初めて今泉さんとお会いしたときはどういう方なのかわからなかったけど、自分の理想とするものに純粋に向かっている方なんだ、と最近思うようになりました。

今泉:昔から生きづらさとか苦しさみたいなものを感じていたけど、「だらしなく生きていい」ということを最初は知らなかった。でも、年を重ねるにつれて「ダメでいていい」ってことがわかってきて、「ちひろさん」でそれを再確認できました。

有村:作品を撮ることで、誰もが持っているコンプレックスのようなものを少しずつほぐしていくような戦い方をされているような気がします。

今泉:ふふふ。

有村:それがかっこいいなって。撮影自体はテイクも重ねたり、画角を変えて何回も撮ったりはしたけど、それで集中力がそがれるわけではない。同時に体もなじんで、調和が取れていく感じが「今泉組」なんだなって。

今泉:撮影期間中、有村さんが日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞をとった翌日に、現場に戻ってきたときのことをすごく覚えています。車の中で待機している際に、「昨日はおめでとうございます」とこっそり声をかけたら、「ありがとうございます。でも、今はもうちひろさんなんで」と。俳優さんにとっては当たり前のことかもしれないけど、すごくうれしかった。

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