※写真はイメージ(gettyimages)
※写真はイメージ(gettyimages)

 エーザイなどが開発したアルツハイマー新薬「レカネマブ」が、FDAに迅速承認された。年内に実用化される見通しがある。AERA 2023年2月20日号から。

【「レカネマブ」の仕組みはこちら】

*  *  *

「アルツハイマー病の治療薬は、20世紀末から研究開発が進んできましたが、ここへ来てようやく努力が実ってきました」

 神経病理学が専門の岩坪威・東京大学大学院教授はそう語る。

 エーザイなどが開発したアルツハイマー病の新しい治療薬「レカネマブ」(商品名レケンビ)が、1月6日、米食品医薬品局(FDA)に迅速承認された。同社は日本でも承認申請し、厚生労働省は優先審査の対象に指定。通常は約12カ月かかる審査が9カ月に短縮され、年内に実用化される可能性がある。

 アルツハイマー病は、脳内に異常なたんぱく質「アミロイドβ」が蓄積することで神経細胞が障害され、物忘れなどの認知機能障害が生じると考えられている。現在、日本でアルツハイマー病に使用できる薬は「ドネペジル」(商品名アリセプト)など4種類あるが、いずれも脳内の神経伝達物質の働きを調整して悪化を抑制する「症候改善薬」。いわば対症療法だ。

 対してレカネマブは、脳内のアミロイドβを除去することにより、悪化を抑制する。疾患のメカニズムそのものに作用する「疾患修飾薬」として、大きな注目を集めている。アミロイドβを標的とした抗体医薬品で、2週間に1度、点滴投与する。

■悪化を2.7%抑制

 実は、エーザイは2021年にも疾患修飾薬「アデュカヌマブ」を共同開発し、米国で迅速承認されている。だが、一般に普及はしなかった。

「アデュカヌマブは2本の臨床試験(治験)のうち1本は治療効果を示しましたが、もう1本は全く効果が見えなかった。アメリカのメディケア・メディケイドサービスセンターは『十分なエビデンスが得られていない』として、公的保険の適用を治験や臨床研究に限定しました」(岩坪教授)

 今回のレカネマブは、治験で明確な効果が示されたという。エーザイは、最終段階の治験で18カ月間レカネマブを投与した群は、プラセボ(偽薬)投与群と比較し、認知機能障害の悪化を27%抑制したと発表した。

「27%の悪化抑制を時間で表すと、進行を5.3カ月遅らせたということです。同等の効果がさらに数カ月続くと、7.5カ月の遅延効果があると予測されています。長く効くほど効果は大きくなっていきます」(同)

 この効果は患者自身が実感できるものなのだろうか。

次のページ