陰謀論が世界にはびこっている。私たちの足元を、民主主義を揺さぶる。社会をむしばみ、刑事事件にまで発展する。誰が、なぜ。長期間にわたり、日米で取材を重ねた。AERA 2023年1月16日号の記事を紹介する。
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カラスは黒か、白か。
私たちの多くが「黒だ」と言っても、「白だ」と言い張る人たちがいる。また、それを広める人たちも、それを信じる人たちも。
2022年12月22日、東京地裁の429号法廷。38の傍聴席はメディアや警察関係者らでほとんどが埋まった。厳重な警備の中、41~65歳の男女5人が入ってくる。
建造物侵入の罪に問われた被告たちに、判決が言い渡される。懲役10カ月から1年6カ月で、いずれも執行猶予3年。一部の記者は、速報記事を出すため、法廷から飛び出していった。
建造物侵入事件が世の耳目を集めることは少ない。では、なぜこの事件は例外なのか。それは被告たちの侵入した場所が新型コロナウイルスのワクチン接種会場だったからであり、その犯行が陰謀論に駆り立てられた末のものだったからだ。
被告たちが所属していたのは、反ワクチン団体「神真都(やまと)Q会」。どんな団体なのか。何を訴えているのか。メンバーは何を信じ、その思想はどこからきたのか。
■昨年3月に設立の団体
登記簿によると、神真都Q会は一般社団法人として、22年3月に設立された。その目的の一つとしては「子どもの健全育成、保育、育児等についての調査」とある。また、公式サイトの「結成宣言」には、「最悪最強巨大権力支配から『多くの命、子どもたち、世界』を救い守る」と記されている。
だが、実態は、コロナワクチンに強く反対する人たちが集う団体だ。団体を創設時からウォッチしているライターの雨宮純氏によると、グループ化の動きは21年10月ごろ、ネット上でうまれた。後に幹部となる男が「大和Q」という言葉を使ってツイッターで「準備はええかぁ!!さぁ行くで!!!!」と呼びかけ、年末にはこの男が「神真都Qリーダー」として、「岡本一兵衛」を指名した。
岡本一兵衛は仮名で、本名は倉岡宏行という。俳優として活躍した時期もあった44歳の男だ。陰謀論を振りまいて生計を立てているユーチューバーコンサルタント、ジョウスター氏との出会いをきっかけにして、21年のはじめごろから、自らも根拠不明の主張をユーチューブで拡散させるようになった。