全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2022年12月26日号には丸山海苔店・販売部部長の青木義理さんが登場した。
* * *
ミシュランガイドで星を獲得した寿司店の約6割が、丸山海苔店の海苔を使っている。その多くの店から目利き役に指名される、海苔のソムリエだ。
全国の主要漁場で採れる一番摘みを買い付け、自社工場で焼き上げている。
商品は200種類以上に及ぶが、見て触って味わうと、産地から等級、品質まで分かるという。
その上で「生の状態で見極められるレベルになりたい」と、さらなる高みを目指して日々、勉強と努力を重ねている。
毎週、工場での焼き作業に立ち会い、テーブル一面に並べた約20種類の海苔を、厳しく見極めて選別する。
良い海苔とはつや、香り、甘み、歯切れのある食感のものだ。焼き方が悪いものは、食べると口の中にごわつきが残り、色味にもばらつきがでるという。
いかに質の良い商品のラインアップを増やすか、仕入れ担当を含めて話し合い、味の管理をする。
全ては、顧客が求める海苔を、自信を持って提供するためだ。
「海苔は単なる海藻ではなく、奥が深い食べ物なんです」
手巻き寿司は、パリッとした食感のもの。太巻きには、巻いても破れないよう厚みがあって、時間が経つとしっとりし、磯の深みが増すもの。握りには、口の中でとろける繊細な風味のもの……。求められるものは千差万別だ。
脇役に思われがちな海苔だが、その味が寿司自体のステージを上げる。
顧客の店を訪ねることもある。そこで求める品質、こだわりをじっくり聞いた上で、マッチした海苔を提供するように心がけている。
築地本店では店長として、一般客とも接している。今、食べるのにふさわしい海苔を提供するため、体調を尋ねることもある。親子3世代にわたってアドバイスを求める人もいるという。
海苔一筋15年。
「お客様を軸に考える」ことを徹底してきた。商品への愛着と自信、プロとしての自覚はある。
そんな海苔のソムリエのおすすめは、初めて食べた時に、そのおいしさに衝撃を受けた有明海産の「大はしり」だ。海苔に一番合う飲みものは、緑茶とのことだ。(ライター・米澤伸子)
※AERA 2022年12月26日号