「日本株の将来性はお話しした通りです。一方、世界経済は多少の凹凸があっても年3%くらいのペースで成長していきますから、全世界株式型でも問題ない」

 気になるのは為替。2022年9月には1ドル=145円を突破し、政府と日銀が円買い・ドル売りの市場介入に動いた。円高に悩んでいた時代もあったのに。

「円安で輸出企業の競争力は高まるので悪いことばかりではないですが……。1ドル=140円台は行きすぎです。120円前後が、みんなが心地よい水準とみています。

 この円安は長くは続きません。1998年8月の1ドル=147円台をピークに、2011年11月には75円台。ドルがほぼ半値まで急落したことがあるわけです。この間、ITバブル崩壊、ロシア国債のデフォルト、リーマン・ショックなどが発生し、そのたびにドルが水準を切り下げました。

 注意してほしいのは、過去には『順番』にやってきた強力なドル売り材料が『同時に』迫っていることです。米国では株のバブルが崩壊しかけているだけでなく、30年物の住宅ローン金利が6.5%を超え、インフレの影響が深刻です。

 中国経済の深刻な停滞ぶりも漏れ伝わってきます。先日、欧州金融大手クレディ・スイス・グループの経営不安説が流れ、『リーマン・ショック再来か』と市場が動揺する場面もありました。

 英国では景気対策として打ち出した減税政策が財政悪化を招くとして国債が暴落し、中央銀行が無制限購入を発表、混乱を収束させています。世界各国の政策当局には余裕がないのです」

 並べられると恐ろしくなってきた。

「ユーロ圏や英国で10%前後、米国で8%の超インフレです。米国のFRB(連邦準備制度理事会)など、日本と中国を除く世界主要国は金利の引き上げを急いでいますが、物価は高止まりしたままです。

 FRBは当初、景気を腰折れさせない範囲で金利を上げてインフレを沈静化させようと考えていましたが、3%そこそこの金利引き上げでは8%台のインフレに歯が立たない。

 インフレを退治するには景気をクラッシュさせて需要を冷やすしかないことをFRBはようやく認識したようです」

 米国株のバブル崩壊でさらに株価が下がれば歴史的な買い場になる可能性はある。

「長期投資しているなら、耐えるべきです。投資信託をつみたてている人は、淡々と買い続けるだけでいい。投資というものはみんなが怖がっているときにエントリーして、みんながウキウキしているときにそっと退出するのが賢明なのです」

 2021年のように、投資に全く無縁だった人までこぞって投資信託を買うと言い出したときは要注意だそう。

「個人投資家が今からできるのは、これから来る米国株のバブル崩壊に備えて現金を多めに確保すること。みんなが見向きもしなくなったところで安く買うことです」

(構成/編集部・中島晶子、伊藤忍)

※『AERA Money 2022秋冬号』から抜粋

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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