AERA Money 2022秋冬号
AERA Money 2022秋冬号

 エミンさんの話が熱を帯びてきた。

「日本株は企業の価値に比べて割安です。金融緩和下では成長株が買われる傾向が強いので、これまではスタートアップ(急成長する組織)の育成が盛んな米国の成長株が資金を吸い寄せてきました。

金融緩和時代が終わると、投資家の嗜好(しこう)は『成長性』から『安定したクオリティー』に移ります。『メイドインジャパン』は安心やクオリティーの高さの象徴です。

 米国と中国の対立の深刻化も、サプライチェーンが日本に戻ってくる方向で作用します。金融緩和の終了、グローバル経済からブロック経済への転換など、世界の潮流が日本株には追い風」

 目下、投資への関心が急速に高まっている。2022年4月から高校生の家庭科の教科書の一部に「資産形成」が載り、岸田文雄首相は「資産所得倍増プラン」で国民に投資をすすめる。投資により自分のお金を増やし、経済的自立と早期退職を意味する「FIRE」を目標とする人も増えた。そもそも「投資」のエミン流定義は?

「人生を豊かにするため、プラスアルファの余裕をつくるために行うのが投資。この動機を間違えて、働くのが嫌だから、働きたくないから投資をすると失敗します」

 現状の安易なFIRE志向には否定的。

「人生はいつ何が起きるかわかりません。病気で働けなくなることも、会社が倒産して無職になることもある。そんなときに思考停止に陥らず、正しい判断を下すためには心のバッファー(緩衝材)が欠かせません。そのバッファーをつくるのが投資」

 仕事が嫌だからという理由で一獲千金を目指す人に対して言いたいことは。

「働かずに配当や株式の値上がり益で暮らしていきたいと思って急いで投資したら、99%は失敗します」

 これにはちゃんとした理由がある。

「若い人はそもそも元手が少ない。株式や為替のトレードで、少ない元手を一生生活できるだけの資金量まで増やそうとすれば、レバレッジをかけ、ギャンブルさながらの大きなリスクを取る必要があります。でも、ギャンブルを続けていれば、資金はいずれゼロになってしまうことでしょう」

 エミンさんは、「大事なのは経済的自由よりも会社という組織から解放され、自由になって何をしたいかです」と断言した。

「田舎で農業にチャレンジするとか、夢だったカフェを開くとか、やりたいこと、あなたにはありますか?

 FIREを口にする人の多くは『経済的自由を得たい』と言いますが、『働きたくない』を丁寧に言い換えているだけではないかな」

 米国株のバブル崩壊が心配される中、将来の余裕を生むためにどう投資していけばいいのか。つみたてに向く投資信託は、エミンさんの「日本株推し」を聞く限りではこれから10年くらいは日経225のインデックス型とも思えるが。いや、全世界株式型が無難か……。エミンさんは「どちらでもいいですよ」と即答した。

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為替は過熱感あり。今は現金を多めに持つ時期