──科学は日々進歩し、シリーズを追うごとに番組の質も向上。その分、視聴者の期待値も高くなっていく。だが沢口は「それをプレッシャーに感じることはないです」と明るく話す。その表情は、まるでマリコのようだ。

沢口:今回こういう課題が与えられたということは、これができると期待してくださってるからだといつも前向きに受け止めていて。その辺りはマリコと同じですね(笑)。私も比較的ポジティブな性格ですけれど、やっぱりマリコの影響を受けていると思います。

■「まだ50%くらい」

──そんな沢口には、俳優人生の中でずっと大切にしてきたポリシーがある。

沢口:脚本家の書かれた台本の精神までを読み込んで表現したい、という気持ちは今も持ち続けています。何度も何度も脚本を読むことで見えてくることもありますし、昨日わからなかったことが今日読んだら見えてくることもある。よっぽどわからなければスタッフに「これはどういう意味でしょうか?」と伺います。とにかく、全部理解した上で入りたいんですよ、現場に。まだまだですけれど。

──高い理想に向かって、俳優の道を歩み続けてきた沢口。今は理想に対してどのくらいまで到達していると思うか?と問うと、「まだ50%くらい」と笑った。

沢口:力業ができないので(笑)。私は本当にそういう力業ができないタイプだった。そこは短所であり長所なのかもしれませんね。不器用なところが。器用にできるタイプじゃないから、細かな作業が必要になってくる。「現場で何とかなる!」というふうにはなかなかなれません。

──取材に同席したドラマスタッフが後から教えてくれた。沢口は通常の主演俳優と比べて何十倍も準備に時間をかけていること。撮影で使う実験器具には事前に必ず触れていること。

「セリフ量も尋常じゃないので、一体いつ寝ていらっしゃるんだろうと思います」

 真面目でひたむきなマリコと、表に見せない努力や情熱を抱えた沢口がここでも静かに重なった。

沢口:マリコの言葉にしたいんです。マリコの言葉にしたいし、マリコの動きでありたい。全ては本当に榊マリコでいるために。

(構成/ライター・西澤千央)

AERA 2022年10月10-17日合併号