園バスに置き去りにされた園児が熱射病で死亡した事件では、バスの駐車場にたくさんのペットボトルが供えられていた
園バスに置き去りにされた園児が熱射病で死亡した事件では、バスの駐車場にたくさんのペットボトルが供えられていた

 静岡県の認定こども園で、3歳の女の子がバスに置き去りにされ、死亡した事件から3週間。昨年7月に福岡県で同様の事件が起きたばかりだが、なぜ悲劇は繰り返されるのか。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。

【園の事件事故を防ぐための4ポイントはこちら】

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 静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で起きた痛ましい事件。園は事件翌日から休園が続き、静まり返っていた。園庭は人工芝が敷き詰められ、樹木もなく、キャラクターの遊具が目立つ。

 子どもの命が守られるべき場所での死亡事件に、子育て家庭や保育現場には激震が走った。

「(昨年7月の)福岡の事件をまだ他人事としている園があったなんて。信じられない。涙なしには見られないニュースです。もう悔しくて仕方がないです」

 と憤るのは三重県で6歳と2歳の子どもを育てる自営業の女性(44)。子どもたちが通う園では昨年の事件後、バスに同乗する職員を2人体制に増やし、対策を強化していた。それだけに「防げたのでは」との思いが込み上げる。

 今回の事件直後に献花に訪れた静岡県で2児を育てる女性(35)は7月、県中部の別の園で、「置き去りの園児」を目撃した。課外保育に出発したバスに乗り遅れ、炎天下の園庭にぽつんと立っていたという。職員に「なんで時間通りに行動できないの」と叱責され、うつむく園児の様子に胸が痛んだ。川崎幼稚園のニュースを見て、7月に見た園児の姿が脳裏をよぎった。

「園に預けるのが怖くなりました。私たち親は、園を選ぶところから子どもを守らないと、って思いました。防犯ブザーやGPSを持たせて、親にできることを模索したいです」

 置き去りがなぜ繰り返されてしまうのか。保育現場に詳しい大阪教育大学の小崎恭弘教授(保育学)は、今回の事件の一番の要因は「ヒューマンエラー」とした上で、背景に「ていねいな保育をする文化が園になかったのでは」と分析する。

「1年前の福岡の事件では、その園が日常的に虐待的な対応をしていたことが明るみに出て、別の問題が浮上しました。つまり、バスの送迎に限らず、日頃から子どもを真ん中に置いたていねいな保育をしていなかった。静岡の事件は、節目ごとの人数確認や出欠のダブルチェックなど、何度か確認するタイミングはあったのに、全部流されていました。ということは、園全体の“子どもを大切にする文化”が弱い、大人中心の保育だったと考えられます」

AERA 2022年10月3日号より
AERA 2022年10月3日号より

 ではなぜ“大人中心”に傾く園があるのだろうか。小崎教授は続けてこう語る。

「理事長や園長といったトップのマネジメント能力の弱さやいいかげんさも一因と考えられます。今までは、保育者と子どもの関係=保育の質と言われていましたが、最近は組織全体の運営やあり方が重視され、よりトップの意識が問われています」

(ライター・大楽眞衣子)

AERA 2022年10月3日号より抜粋