今年2月に大阪中之島美術館がオープンした。構想から約40年。大阪のまちから美術をとらえ直す、新しい美術館のありようとは。AERA2022年9月12日号の記事を紹介する。
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大阪の中心地の中之島。堂島川と土佐堀川に挟まれた中州に、大阪中之島美術館はある。高層ビルが立ち並ぶなか、四角い黒の建物と、緑の芝生のコントラストがひときわ目を引く。館内は5階まで吹き抜けの広々とした空間で、来場者が椅子に座ってくつろいでいる光景が印象的だ。1、2階は誰でも行き来できる遊歩空間があり、上階の展示室へと続く長いエスカレーターは異空間へといざなう装置のようで、この建物空間にワクワクする人も多いだろう。建物に開放的な雰囲気が表れている。
この美術館は、美術とデザインの両方を専門にしており、近現代の日本と海外の6千点を超えるコレクションを、様々なテーマで紹介する。特徴の一つに「大阪の視点」がある。大阪というまちの目線や価値観を通して、美術をとらえ直す姿勢だ。
■垣根越え交わる
10月2日まで開催中の開館記念展「みんなのまち 大阪の肖像」[第2期]では、戦前編の[第1期]に続いて「大阪」をテーマに、戦後から現在に至るまでの絵画やポスター、家電、実物大工業化住宅など作品・資料約300点を展示している。特に産業都市として復興していくなかでグラフィックデザイナーの仕事が生まれたり、画家が企業広告のデザインを手がけたり、ジャンルを超えた交流の場が盛んだったりした動きを紹介しているのが興味深い。
大阪は、美術とデザインが垣根を越えて交わるありようを生み出してきたまち。そんなふうに、まちと美術とデザインが結びつく見方ができるのは、この展覧会ならではだ。
2022年2月にオープンして約半年が経ち、この場所には普段から美術館に行き慣れていない人たちも多く足を運んでいるという。新名所という話題性もあるが、コロナ下で遠出がしづらい状況下で、特に地域の人に何度も来てもらえるよう展覧会の組み方を工夫。一見、ハードルが高そうなイメージのある美術を、広く市井の人に開く形で紹介している。
開館まで、建設準備室で30年勤めてきた初代館長の菅谷富夫さん(64)には「30年の目」がある。その目線から、こう話す。