山田弁護士によれば、1985年に労働省(現・厚労省)の労働基準法研究会が示した「労働基準法研究会報告」の内容が、裁判においても一般的な解釈として踏襲されているという。

「一番のポイントは時間の管理です。例えばフリーランスの人は、会社員のように『遅刻』や『早退』があるわけではなく、時間を管理されていません。しかし、朝から晩まで業務があり、仕事の発注者のために拘束され働き続けなければならない実態がある場合には、『労働者』に近づいていくと思います。さらに、発注者から業務の指揮・監督を受けているかなどを総合的に判断し、労働者性が認められるかどうか決まります」(山田弁護士)

 アマゾン配達員組合横須賀支部は7月、下請け会社と団体交渉に入った。だが、アマゾンは団交を拒否しているという。

 今回の問題についてアマゾンジャパンは、本誌の取材に次のように回答した。

「今回、アマゾンに書面を提出したドライバーの方々はアマゾンの委託先配送業者のもとで配送業務を行っており、アマゾンの従業員ではありません。委託先配送業者に対しては安全な働く環境を整えること、関連法規やアマゾンの基準を遵守(じゅんしゅ)することを求めています。アマゾンの基準などを遵守していないことが確認された場合は、適切に対処いたします」

 アマゾンが導入したAIアプリを通し、配達ドライバーは働き方の指揮命令を受けているという組合の主張については、

「アプリの利用は必須ではありません」

 とし、AIアプリによって荷量が一気に増えたとされる点については、

「現在、特にお伝え出来ることはございません」

 と回答。組合との団交を拒否した理由については、

「(配達ドライバーは)アマゾンの従業員ではありません」

 などと答えた。

「労働政策研究・研修機構」統括研究員の呉学殊(オウハクスウ)さんは、こう話す。

「本来、取引において依頼する側と依頼を受ける側は対等でなければいけません。しかし、実態は依頼をする側の立場が強く、その『優越的地位』を使い、依頼を受ける側が不当な契約で仕事をせざるを得ない状況になっています」

 韓国の労働問題に詳しい呉さんによれば、韓国でも個人事業主が増える中、雇用のセーフティーネットとして「全国民雇用保険制度」が導入され、芸能従事者や配達ドライバーなどの個人事業主に雇用保険が適用されている。さらに韓国では、個人事業主が労働組合をつくれば、企業は産業の発展につながるとして組合との団交にも応じているという。

 今回、アマゾン側がアマゾン配達員組合横須賀支部の団交を拒否している点について、呉さんは次のように話す。

「労働組合は、働き手の声を会社に伝える、会社発展のためになる経営資源です。労働者性があるかどうかは別にして、配達ドライバーの声を吸い上げることは産業の発展につながります。それを労働者ではないからとして、門前払いする対応は産業の発展につながりません」

 多様で自由な働き方の拡大とともに、フリーランスは増えていくとみられる。呉さんは言う。

「たとえば、フリーランス保護法のような法律を制定したり、労働者性の判断基準を緩めたりして、労災保険や雇用保険など安心して働ける最低限の保護を行うなど、フリーランスが安心して働くことができる環境をつくることが重要です」

(編集部・野村昌二)

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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