北海道大学科学技術コミュニケーター養成プログラム/通学を基本とする本科と、オンデマンド+キャンパスでの数日間の集中演習で学ぶ選科がある。これまでの修了生は1千人超(写真:CoSTEP提供)
北海道大学科学技術コミュニケーター養成プログラム/通学を基本とする本科と、オンデマンド+キャンパスでの数日間の集中演習で学ぶ選科がある。これまでの修了生は1千人超(写真:CoSTEP提供)

「イノベーションが生まれるのも、他分野との融合からですよね。そういうものが起きやすい世の中を作る手助けになればいいなと思っています」

■“シチズンシップ教育”

 日本テレビアナウンサーだった桝太一さんが「サイエンスコミュニケーター」に転身するため今春退社したが、近年科学と社会をつなぐ「科学コミュニケーション」も注目されている。

 北海道大学大学院教育推進機構オープンエデュケーションセンターに設置された科学技術コミュニケーション教育研究部門、「CoSTEP(コーステップ)」では、一般向けの科学技術コミュニケーター養成プログラムを05年から開講してきた。

 専任教員による講義の他に、番組制作などで活躍する実務者や、社会問題の当事者など外部講師による講義もある。例えば「ライティング演習」では、事実を正確に述べるだけではなく、読み手の特性を考慮した構成や内容の取捨選択、文章表現を身につけ、「ファシリテーション演習」では、市民と専門家が科学について自由に語り合う際に必要なスキルを学ぶ。

 CoSTEP代表の川本思心(ししん)准教授は説明する。

「科学コミュニケーション教育が本質的に何なのかといえば、シチズンシップ教育なのだと思います。現代社会において、科学は重要な判断基準の一つであり、避けては通れないものですが、必ずしも中心にあるものではありません。さまざまな専門家が適切な責任の範囲内でかかわりながら、社会で物事を決めていく時に、市民としてそこにどう参加するか。自分の立場で考え、できることを地道にやっていく。そんな仲間を増やしていけたらと思っています」

 ライターとして働く40代の女性は、19年に同講座に参加した。「高2以来、理数系には一切触れてこなかった」という文系人間で、科学に対しては「苦手意識と嫌悪感があった」。

 だが、ファッションの取材で繊維の話が出たときや、テクノロジー系の仕事についてインタビューするときに、深掘りしたくても躊躇(ちゅうちょ)してしまうことがあり、受講した。講座を通じて以前よりフラットに科学に接することができるようになったと感じているという。

 エセ科学がはびこるなか、客観的に物事を見る力や観察力を養う科学の視点は、大人にも必要。科学を見つめ直してみませんか。(編集部・高橋有紀)

AERA 2022年8月15-22日合併号