東寺の食堂で描いた
新作の曼荼羅《ネク
ストマンダラ―大調
和》。二幅一対となる。
「陰陽・白黒」では対
極にあるものが互い
に認め合い、大調和
していくイメージを、
「虹・彩」では天と人
との約束の光を表現
した(photo 写真映像部・東川哲也)
東寺の食堂で描いた 新作の曼荼羅《ネク ストマンダラ―大調 和》。二幅一対となる。 「陰陽・白黒」では対 極にあるものが互い に認め合い、大調和 していくイメージを、 「虹・彩」では天と人 との約束の光を表現 した(photo 写真映像部・東川哲也)

 版画の工房に入り浸り、遅くまで制作に励む。この工房で初期の代表作《四十九日》が生まれた。

 美学生1年の秋、長野の実家から祖父の危篤を知らされた。祖父が夢に出てきて「急がなくていいよ。この日に帰っておいで」と教えられ、帰省した翌朝に祖父は息を引き取った。その瞬間、祖父の体から魂が抜けていくのを見たという。

「四十九日に向かう中でおじいちゃんとどう向き合うかをすごく考えました。魂になっても幸せになってほしいから、感謝を込めて祈ることが大事だと。そこで絵のイメージが湧いてきたんです」

 東京へ帰って、小川に話すと「すぐ描きなさい」と。特別な技法も使わない方がいいと助言された。《四十九日》のイメージは「おじいちゃんの魂があの世へ向かう旅の途中」。案内役は、かわいがっていて先に逝ったウサギの「ラビちゃん」だ。魂の世界では人も動物も平等であることを描いた。

 卒業後はバイトをし、家賃5万円のアパートで制作を続ける。アートショップで働いていたときに知り合った人たちから、作品を見てもらう機会もあったが、誰からも評価されない。「こんな絵は飾りたくない」「気持ち悪い」と敬遠された。

 その頃、バイト仲間の女性がカウンターだけの小さなバーを開いた。小松は《かわいい寝顔》と名づけた絵を店に飾ってもらう。しばらくして、「よく飲みに来る人が美羽ちゃんに会いたがっているよ」と連絡がきた。それが、映像関係のプロデュースを手がける高橋紀成(きせい)との出会いだった。

 高橋は最初にバーで小松の銅版画を見たとき、「メビウス」の絵かと驚いたという。メビウス(ジャン・ジロー)とはフランスの漫画家で、SF作品の傑作を手がけ、世界の名だたる映画や日本の漫画界にも多大な影響を与えてきた。白黒の緻密な画風でも知られる。

「メビウスの世界観はある種のファンタジーであり、グロテスクでもある。彼女の作品には同じ感覚があって、面白いなと思ってよく見ていました」

次のページ