算数セットの記名。大変だと思い込んでいましたが……。(画像/筆者提供)
算数セットの記名。大変だと思い込んでいましたが……。(画像/筆者提供)

 「あなたたち、どうかしてるわよ」

【子育て中の男性たちの本音】

 アメリカ人の義母が言うと、義妹も応戦します。

「うん、常軌を逸している。私なら絶対ムリ」

 ふたりが何に驚き呆れているかというと、小学校の算数セットです。この4月に小学生になった娘のクレヨン、クーピーに1本ずつ記名をしていると画像付きで報告すると、「さすが日本人は几帳面ねえ」と感心した返事がきました。そこで、クレヨンなんかは序の口とばかりに算数セットの画像も送ったのです。日本で子どもの入学準備をされたことのあるかたならおわかりでしょう。おはじき、数え棒のひとつひとつにしらす干しかと思うくらい細い名前シールを貼る、あるいはしらすの目ほど小さな字で名前を書く、気の遠くなるような作業のことを。

 さらに感心してくれるかと思いきや、義母と義妹の反応は先のように冷めたものでした。「ドン引き」という日本語が、私の頭に浮かびました。普段は日本の文化についてとても好意的な義理の家族が、こんなに白けた反応を見せるのは初めてのことです。

 約1年前、この連載で「日本より断然ラクなアメリカの入園・入学準備 秘密はお道具のシェア」という記事を書いたように、アメリカではバッグや水筒などごく一部の持ち物を除き、物品に細かく記名することはありません。クレヨン、絵の具、画用紙といった学用品は各家庭で購入して持ち寄り、クラス全員で共有するからです。

 学用品が共有になれば色々な準備がかなりラクになると思うのですが、日本ではなぜならないのだろう。特に算数セットなんて小学校生活の序盤しか使わないし、自宅で使うことも今のところなさそうなのに。個人で所有し、ひとつひとつに記名する理由として「物を大切にする気持ちが育つから」と学校から説明がありましたが、もともと日本人は共有・専有、記名の有無にかかわらず物を大切にする傾向があると個人的には感じます。アメリカと比べたら物持ちはいいし、食べ物は残さず食べるし、公園や公衆トイレのきれいなことといったら!

 算数セット記名の問題提起をすると、「あれは苦行だ」と共感してくれる人がいる一方で、「私は全然苦じゃなかった」という人もいました。手先が器用で、時々かわいい手作り手芸グッズをプレゼントしてくれる友人は各文字同じサイズで等間隔に記入することをむしろ楽しんで行ったといいます。誰もが細かい記名を疑問視しているわけではないんだ、と目の覚めるような思いでした。

著者プロフィールを見る
大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

大井美紗子の記事一覧はこちら
次のページ
校則、PTA、ランドセル…日本の学校には是非がたくさん