5月20日から東京・TOHOシネマズ シャンテ他で全国公開。ヒロインは目が決め手となりオーディションで選ばれたリウ・ハオツン (c)Huanxi Media Group Limited
5月20日から東京・TOHOシネマズ シャンテ他で全国公開。ヒロインは目が決め手となりオーディションで選ばれたリウ・ハオツン (c)Huanxi Media Group Limited

■あふれ出す映画の記憶

 1951年生まれのチャン監督。文革の最中の73年は、陝西省の紡績工場で働いていた。映画撮影を独学で学び始めたのはその頃から。映画に登場する多くのシーンは監督の実際の体験に基づいている。

 例えば、砂漠で引きずられ泥まみれになったフィルムを村中の人々が洗って乾かし、再生させるシーン。フィルムが汚れたらどう洗うか、どうやって素早くフィルムを乾かすか。すべて監督自身の体験であり、苦労しながら発見したノウハウだという。

 また、唯一無二の娯楽だった映画に熱狂する観客やフィルムを切ってはつないでいく映画館主など、一つひとつのシーンを見ているうちに、見る者の内にある映画の記憶があふれ出す。

「成長していく中で、映画があなたにどんな影響を与え、あなたを変えたのか? スクリーンに映る光と影の世界と、どんなふうに戯れたのか? ひいては、なぜ一生この光と影を追いかけることになったのか? 映画人にとって、こうした感覚は非常に強烈です。映画を心から愛する者なら、誰の心の中にも『ニュー・シネマ・パラダイス』があり、『ワン・セカンド』があるのです」(チャン監督)

 多くの人にとって、映画はなぜ忘れ難いものとなるのか。チャン監督は言う。

「最も重要なことは、映画は夢──とりわけ、苦しい暮らしの中で、星空を見たいという渇望と夢──だということ。永遠に記憶の中にある夢だということです。何年も経てば、映画は完全に変わってしまうかもしれません。だけど私は、夢は変わらないと信じています。私たちは永遠に夢を見続けるものだからです」

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2022年5月16日号