本作の撮影期間は39日間。「私の映画の中では最も短期間で撮りあげた作品ですが、心の中の準備期間は長かった」とイーモウ監督 (c)Huanxi Media Group Limited
本作の撮影期間は39日間。「私の映画の中では最も短期間で撮りあげた作品ですが、心の中の準備期間は長かった」とイーモウ監督 (c)Huanxi Media Group Limited

 5月20日から東京・TOHOシネマズ シャンテ他で全国公開となる、チャン・イーモウ監督の最新作「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」。文化大革命の真っただ中に青春時代を過ごした中国映画界の巨星は、記憶を温め続け作品に込めた。その胸の内にある映画への思いは。AERA 2022年5月16日号より紹介する。

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 2008年の夏季五輪に続き、今年の北京冬季五輪でも開・閉会式の総合演出を担当した中国映画界の巨星、チャン・イーモウ監督(70)。

「開会式では新しい技術を使ってより効果的に文化や芸術性を表現」(チャン監督)して人々を魅了したが、5月20日公開の最新作「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」は、技術革新とは対極にあるようなノスタルジックな物語。文化大革命真っただ中の中国を舞台に、多くの人の内にある映画愛を呼び覚ます。監督は本作を「私からの映画へのラブレター」と言う。

■青春の記憶そのもの

「私が撮ってきた映画の中でもパーソナルな作品で、青春時代の記憶そのものです。心の中で温め続け、フィルムについての記憶のかけらを整理して、一本の映画にしたいと願っていました。商業映画ではないし、時代遅れかもしれないけれど、撮る価値があると。本作で描いたような記憶は私だけのものではなく、誰もが持っているかもしれない記憶だと信じています」

 映画は強制労働所を脱走した男(チャン・イー)が砂漠をひたすら進むシーンから始まる。脱走し逃亡者となった理由は、映画の本編前に流れるニュース映画「22号」に疎遠になってしまった最愛の娘が1秒だけ映っていると聞いたから。愛する娘に一目だけでも会いたいと、居ても立ってもいられなくなったのだ。逃亡者はその映画が上映される小さな村の映画館を目指し、広大な砂漠の中を命の危険も顧みずに突き進む。ところが途中、フィルムを村へ運ぶ男の隙をついてフィルムを盗み出した“少年”を目撃。必死に追いかけてみれば、それは少年ではなく孤児の少女リウ(リウ・ハオツン)だった……。

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