金城さんは名前を変えるのはよくないと思っている。しかしそれを「間違い」だと否定するのではなく、それも生き方の一つとして受け止めなくてはならない。そう考え、「一歩一歩、自分たちが沖縄のままで生きる方向に進む」ため、自身の名字も、沖縄読みの「カナグスク」へ戻すことを決意する。とはいえ、日本人に同化している自分が名前だけ「カナグスク」と名乗っても通用しない。でもいつかは、「カナグスク」という自分の名字と身体を一致させたい。だから今は過渡期として「キンジョウ・カナグスク・カオル」と名乗り、自分と社会に変化を起こそうと考えている。

 沖縄人の自分と、日本人の自分。そのどちらにも自信がもてず、沖縄人と日本人の二つを生きていた金城さん。還暦を過ぎてたどり着いたのは「沖縄人として日本人を生きる」という境地だ。関西沖縄文庫には日々、沖縄出身者や沖縄を知ろうとする人たちが通い、熱い議論を交わしている。金城さんは言う。

「ここは『日本の中の沖縄』の最前線だと考えています」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2022年5月16日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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