面倒なプロセスが大事

――小林さんは10年ほど前から俳句を始めた。松重さんは今年、ファッションモデルとしてランウェーにも登場。新しいことに挑戦し続けている。

松重:あれはただ歩いただけですけどね。でも、どこにどんな奇跡が転がっているかわからないから、お声がけをいただければ、ぶつかってみたい。

小林:私も山登りを始めたり、欲張ることなく足りる範囲でやりたいと思っていたことをやっていこうかなと。田舎暮らしに憧れがあったんですけど、最近は瓶の蓋を開けるのも大変だったりして、無理かもと思ってる。この間は湯たんぽの蓋が開かなくなって死ぬかと思った。

松重:湯たんぽ、使ってるんですか?

小林:銅製の。カスタマーセンターに連絡したら「爪楊枝(ようじ)で蓋にある穴をつつくと圧が下がって開くかも」と言われて。ビクビクと穴をつつきながら「……私は何をやっているのか」(笑)。

松重:いや、いいなあ。いま僕もそういう面倒くさいプロセスこそ大事だと思っていて。レコードやフィルムのカメラやコーヒーのネルドリップや片刃のひげそり……。忘れ去られるかもしれないプロセスを、もう一回ちゃんとやることが、老いていくために必要なんじゃないかと思っている。いまスマホの扱い方がわからなくなったら人生終わるでしょう。地元の小さい商店に行かずに大型スーパーに車で行って、でも運転ができなくなったら終わり、っていうのと同じです。

小林:ほんとにそう思います。やけどもするけどお湯沸かすのに鉄瓶使ったり、木の実をすりこぎで潰して料理すると油が出ておいしい、とか。なんでしょうね、年々そういうことに魅力を感じてくるんですよね。これも映画と同じ「大人の人生の味わいと愉(たの)しさ」ですね。

松重:よかった、「大人」でなんとか話がまとまった(笑)。

(構成/フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2022年5月2-9日合併号