海辺の町の空気をゆっくり吸い込んだように清々しいラブストーリー。「ツユクサ」に主演の小林聡美さんと松重豊さんは身長差が30センチ以上ある。意外な組み合わせのようで、かなりお似合いのカップルが、本作への思いを語り合う。AERA 2022年5月2-9日合併号より記事を紹介する。
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――地方の小さな港町で一人で暮らす芙美(小林聡美さん)と吾郎(松重豊さん)。あるとき芙美にちょっとした奇跡が起こり、やがて二人は出会う。
小林:ここまでしっかり共演したのは初めてですよね。
松重:僕は小林さんを「転校生」の17歳のころから拝見していますからね。醸し出す空気が魅力的で引きつけられるんです。役柄の吾郎が芙美さんに興味を持つのと同じように、僕も小林さんがどういうふうに日常を送ってらっしゃるのかなあ、って興味があった。
小林:松重さんは若いころからお侍さんみたいというか、話さずとも何かを語りかけてくるような方。ご一緒して改めて存在感のすごさを感じました。
松重:撮影の合間に小林さんに教えてもらったアイス。もうあれのない日常は考えられなくなった。いまも冷凍庫に17個は入っています。小林さんはね、インフルエンサーですよ。この人が薦めるものは間違いないだろう、って思える。
小林:そんなことないない(笑)。
ちょっとひねくれてる
――映画そのままに波長の合う二人。小林さんはエッセイストとしても知られ、松重さんも一昨年出版した本が好評だ。
小林:松重さんのエッセー、ものすごくおもしろかった。松重さんも私も血液型がAB型だし、すごく共感できるんですよね。俳優という仕事に対する客観性や、ちょっとこう……。
松重:ひねくれてる。
小林:そう! 調子に乗らないというか、ちょっと引いた感じ。
松重:小林さんは俳優の枠にとどまらずに違う分野でアウトプットをされていて、それがスクリーンに戻ったとき奥行きになる。だから芙美さんが抱えてきたものの傷の深さとかが多くを語らず表現されるんです。
小林:ありがとうございます。この映画ではあえて哀(かな)しみの部分は軽く触れるだけ。そのさりげなさが、逆にリアルですよね。
――それぞれに哀しみを抱える芙美と吾郎が、少しずつ近づいていく。どこかぎこちなく、瑞々(みずみず)しい大人のラブストーリーでもある。
小林:私は恋愛ものをほとんどやったことがないので、もうなんだかよくわからないまま終わったというか(笑)。
松重:僕もそう。でもこの映画は哀しみの表現と同じく、恋愛も生々しく描くわけではないから特に構えず、小林さんとなら自然にやるしかないと。