短期集中連載「起業は巡る」。第3シーズンに登場するのは、新たな技術で日本の改革を目指す若者たち。第5回は、なんでもネットに繋いでIoTをプラグイン化する「ソラコム」代表取締役社長の玉川憲氏だ。AERA 2022年3月21日号の記事の1回目。
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壁際のコンセントにプラグを差し込めば、すぐに電気が使える。コンセントの先には配電盤があり送電線があり、その先に発電所があるのだが、利用者は全くそれを意識しない。この状態を「プラグイン」と言う。
コンピューターのプラグインが「クラウドサービス」である。パソコンをネットに接続するだけで、その先にあるデータセンターを好きな時に好きなだけ使える。高価なコンピューターや複雑なソフトウェアを用意する必要はない。料金は使った分だけ払う。世界で最もよく利用されているのが米アマゾン・ドット・コムの「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」だ。
家電やオフィス機器、工場の機械などあらゆるモノがネットにつながるIoTのプラグインを提供している日本のベンチャー企業がある。ソラコムだ。
■IoTの民主化を担う
従来のIoTはモノとネットをつなぐ仕組みを利用者が自ら作る必要があり、電波を利用するための許認可や通信会社との契約など煩雑な手続きを伴う。ソラコムのサービスを使えば面倒な作業は一切なし。送られてきたSIMカードを機器に差し込むだけ。まさにプラグイン。AWSが「コンピューターの民主化」なら、ソラコムがやっているのは「IoTの民主化」だ。
例えば、宮崎県の養豚会社、協同ファームはソラコムを使って豚舎の水の利用状況や、加工工場の冷蔵庫や冷凍庫の温度、湿度、CO2のデータをモニタリングしている。ガラス大手のAGCは関西の工場でタンク在庫管理システムを作り、年間の作業時間を500時間減らした。内田洋行は全国の学校にある百葉箱に設置したセンサーとカメラのデータを集め、教材で使えるアプリを開発した。ソラコムの利用者は国内に限らず、回線数の25%以上は海外企業だ。
この画期的なシステムを作ったのは、AWS出身の起業家、玉川憲。彼の元に日本のIT産業を支えていた第一線のエンジニアが集まり、ソラコムは始まった。まさにプロフェッショナル集団による起業である。