北京冬季五輪では、選手第一の形骸化や人権問題がはらむなど、改めてあり方が問われた。五輪は今後、変わることができるのか。五輪に詳しい一橋大学大学院・坂上康博教授と著述家・本間龍さんが対談した。AERA 2022年2月28日号から。
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坂上:前向きな変化をめざす選手中心の国際的組織「グローバルアスリート」は、今年1月に声明を出し、中国による表現の自由の抑圧と、選手による政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を禁じた五輪憲章50条の組み合わせによって「アスリートが人権問題について発言することを制限している」と批判しています。アスリートたちもそういう声を上げています。
IOCは選手を守っていない。逆に「言うな」と抑圧している。やはり怖いんですね、中国が。「グローバルアスリート」ですら、選手に批判発言を控えるよう助言しています。そもそもこんな国で五輪をやること自体が問題。本来、開催する資格がない国です。その「資格がない」を、今後IOCが明確に示せるようになるかどうか。
可能性の芽が一つあります。2020年12月に出された、「IOC人権戦略のための提言」です。IOCから依頼を受けた、独立した専門家による報告書。5年間で目標を達成せよとしています。
選手に関しても、IOCの「アスリート委員会」の役割の改善や、団体交渉権を認めるべきなど、とても具体的で実行力を持つ提言をしています。24年パリ五輪も、26年のセネガルでのユース五輪もこれに基づいて動き始めています。私はそこに一縷(いちる)の望みを託しています。
■「平和運動を真っ当に」
本間:いま日本では30年冬季五輪を札幌に招致しようとしていますが、日本はその要件に引っかかって開催できないんじゃないですか(笑)。
坂上:あり得ますね。この提言にしたがって、国連の指導原則に基づいた人権要件が開催都市契約にも盛り込まれる。そうなると、札幌招致の過程で入管の問題やジェンダーの問題など日本の状況がさらけ出され、「中国みたいな国だ」となりかねない。