「そんな時は、日々習慣化していることに淡々と向き合うに限ります。躁状態ということは、いつものペースが崩れている、ということ。過去問の解き方も雑になるので、一度ストップした方がいいときもあります」(安浪さん)


 親だけで対処しようとせず、塾の先生を頼ることも大切だ。


「子どもの気持ちが浮ついているときは、子どもが信頼している先生からの叱咤激励が効く」 と、前出の西村さんはいう。


■合格校に縁があった


「たとえば『二つの合格は、君にとっては当然の結果だ。次に大切な試験が控えているのだから、ここで気を抜くな』というように塾の先生から声をかけてもらうと、『二つの合格は当たり前だと思ってくれている、自分は認められた』と子どもは思う。その後の言葉を素直に聞こうとするんです」(西村さん)


 第3、4志望が不合格になった場合には、「次の受験校に向け頑張ろう」と、すぐに頭を切り替えることが必要だ。ここで大切になるのは、「親子ともに」素早く頭を切り替えるということ。親が引きずっていたら、それは必ず子どもに伝わってしまう。文教大学地域連携センター講師の早川明夫さんは言う。


「親が思う以上に、子どもは親の動向をよく見ています。不安に思うことがあれば、子どもの前ではなく、夫婦だけで話をするべきです。子どもの前では、すべてをプラス思考で捉えていくことが大切です」


「ダメだった」「×だった」「取れなかった」「落ちた」……。「不合格」を表す言葉は数多(あまた)あるが、「縁がなかった」という言葉を使うのが良いのではないか、と早川さんは言う。


 第1志望に合格するのは、受験生全体の約3割と言われる。合格し、通うと決めた学校に、最も縁があったということ。自分を受け入れてくれた学校で、一生懸命毎日を過ごすことが大切であり、努力は決して無駄にはならない、どこかで必ず役に立つ、と親自身が信じていることも大切だという。早川さんは言う。


「極端なことをいえば、中学受験で人生が決まるわけではない。親自身、それくらいの気持ちで子どもに向き合うことが大切だと思います」


(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2022年1月31日号