AERA 2022年1月17日号より
AERA 2022年1月17日号より

 老化に関する考え方が変わりつつある。最大寿命は変えられないが、老化はコントロールできる病であるという。一体、どういうことなのか。AERA 2022年1月17日号では、最新研究にもとに専門家が解説する。

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 竹取物語の昔から、不老は人の夢だ。いま、最新の研究はどうなっているのか。近畿大学奈良病院教授で同大学アンチエイジングセンター教授の山田秀和さんは、こう話す。

「『老化』というものに対する考え方が、この10年弱で大きく変わり始めました」

 山田さんによると、「老化」と「寿命」は別問題だという。

「人間の平均寿命は延びる傾向にありますが、最大寿命は120年ほどで変わっていません。つまり、最大寿命は変えられない。けれども、老化はコントロールすることができる、治せる病であると私は考えています」

■「老化」の謎に迫る研究

 では、最大寿命は何が決めているのか。その謎に一歩近づくための概念の一つが、「エイジング・クロックス」(生物学的老化時計)だ。どのような因子が生物学的な老化に影響を与えているかを解析し、老化ペースを示す、生物学的な年齢指標だ。

 計測する項目(バイオマーカー)の対象となるのは代謝や免疫だけでなく、心血管、口腔、脳、視覚、聴覚、呼吸器、骨、筋肉、腸内細菌など多岐にわたる。現状、バイオマーカーの選択によってさまざまなエイジング・クロックスが乱立しているが、山田さんが注目するのは2013年に発表された「エピジェネティクス・クロック」という概念だ。

 遺伝子の情報は、DNAを構成するA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4種類の塩基の並び方、すなわち塩基配列によって決まる、というのが従来の遺伝学(ジェネティクス)の考え方だ。

「ところが、DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子を調節しその働きを決める他の仕組みがありそうだということがわかってきた。これをエピジェネティクスと言います」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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