映画の中で細野晴臣は言う。「あのニューヨークとロサンゼルスでやったライブはまるで別世界のように思える」。だからなおさら、音楽が愛おしく思えるのだ (c)2021 “HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA”FILM PARTNERS
映画の中で細野晴臣は言う。「あのニューヨークとロサンゼルスでやったライブはまるで別世界のように思える」。だからなおさら、音楽が愛おしく思えるのだ (c)2021 “HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA”FILM PARTNERS

 2019年のアメリカツアーを記録したライブドキュメンタリー映画「SAYONARA AMERICA」。「あの日が遠い過去のように思える」と、彼は自由が失われていく世界に警鐘を鳴らしている。

【写真】楽屋でもチャーミングな細野晴臣

 2019年5月から6月にかけて細野晴臣が行った初のアメリカソロツアーは、チケットがたちまち完売となる公演が出るなど、盛況のうちに終わった。

「お客さんがほとんどアメリカの人というのは異様だったけど、雰囲気は日本とあまり変わらなくてね。不思議な気持ちでした。最初は不安なままステージに出ていったんです。みんな冷やかし半分で来てるんだろうと。ところが想像していた以上に、僕の音楽を真剣に聴いてくれてることがわかった。反応がすごくあたたかくてね。ありがたいと思いました。それがいちばんの驚きだったかな」

 ニューヨークとロサンゼルスで開催されたライブの様子を記録するドキュメンタリー映画「SAYONARA AMERICA」には、円熟した歌や演奏はもちろん、会場に詰めかけた観客の興奮が、彼らへのインタビュー映像とともに収められている。観客のひとりは言う、「興味のままに自由に音楽を作る……細野はそのいいお手本なの」と。

「反対に彼ら観客から教わりました、このままでいいんだということをね。印象的なのはニューヨーク公演に来ていた年配のカップルです。彼らは『音楽家にずっと変わらないでいてほしいとは思わない』と話していて、これまでやってきたスタイルでよかったんだと人生で初めて思いました(笑)」

 1969年のデビュー以来、細野の音楽は変化をくり返してきた。大瀧詠一、松本隆、鈴木茂と結成した「はっぴいえんど」では日本語のロックを築きあげ、坂本龍一や高橋幸宏と組んだ「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」ではテクノミュージックによる世界進出を果たした。アメリカ公演で彼が披露したのは、この十数年、精力的にカバーに取り組んでいるブギウギやカントリーといった古きよき時代のアメリカ音楽だ。

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自分の音楽活動の元にはアメリカ音楽への憧れがある