――著書の中では、伊沢自身が東大生ブームの立役者として活動してきたことに、もどかしい思いを抱えていたことも率直に綴られている。

伊沢:本当は、「過程」をみてほしいんです。マジック(学歴を用いた演出)ではなく、ロジック(答えに至るまでの思考の道筋)にこそ、クイズの本質が詰まっていますから。

 視聴者を驚嘆させる早押しやひらめきは、一部の天才のみがなし得るものではなく、先達が数十年かけて蓄積してきた理論のうえに成立しているんです。

――それを証明するため、自著ではクイズの問題を25の「構文」に分類し、プレーヤーが解答に至るまでの思考の軌跡を余すことなく記述した。

伊沢:これが理解されれば、勉強するステップにも面白さを見いだせるようになると思うんです。たとえば、論文の結論だけを取り出して何かを語るのではなく、数回に分けていちから論文を読破するような学びが受け入れられるようになるかもしれません。過程をエンターテインメントとして楽しめるコンテンツを増やしていくことが今後の目標です。

■学ぶ面白さ伝えたい

――自身が企画・出演するYouTubeチャンネル「QuizKnock」でも、学びの過程をエンタメ化する取り組みを既に始めている。

伊沢:今はクイズ企画のほかに、1時間一緒に勉強するだけのライブ配信を週2回やっています。学習目標の立て方も伝えながらなので、地味でもゆっくり学ぶことの面白さが伝わればいいなあという気持ちです。

 クイズ動画でも、答え以外の気づきがあるものを作りたいですね。たとえば、過去には『問題文の句読点しか表示されないクイズ』をやったんですが、当然ながら、めちゃくちゃ読みづらくて……(笑)。

 でも、そういう体験から『句読点ってこういうリズムが自然だな』ということにも気づくことができる。問いと答えの一対一以外の学びも生まれ、知が広がる。QuizKnockで出題しているクイズも、そうやって作っているんですよ。

――数多くのクイズ番組に出演するにつれ、多くの人から博識ぶりを称えられるようになった。だが、クイズに深く向き合うほど「知っていることの曖昧さ」を痛感するという。

伊沢:たとえば、僕が企業にロケにいって、その会社の秘密をクイズとして出題される番組があるのですが、最初は全然わからないんです。でも、出題されたシチュエーションや質問を通して、なんとなく答えが見えてくる。だから、「知識はないけど、わかる」んですね。一方で、わかったと思っても、当たっていないこともある。だから「わかることと、正解すること」も違う。そう考えると、「ものを知っているかどうか」なんて、自分でもわからないものですね。

――これからも、数多の問いと向き合う日々が続いていく。

(ライター・澤田憲)

■伊沢さんが選ぶ歴史的名クイズ

【いま最もアツいクイズ】
「謎解き」全般
現在のクイズを語る上では外すことのできない存在(クイズを「問いと答えがあるもの」と定義するなら)。江戸時代の判じ絵なども本質は変わらないし、昭和のテレビにも見られた形式だが、そこにここ10年で「謎解き」という命名が行われ、人口に膾炙したことが何よりも意義深い。様々な名前で呼ばれていたものに、皆が同じイメージを共有できる「謎解き」という名が与えられたことが、ジャンルとしての存在感をいっそう増した。いま一番、人々をひきつけているクイズなのかもしれない。
 【早押しクイズの象徴でありミーム】
Q アマゾン川で年に一度、河口から上流に向け、流れが逆流することを?
A ポロロッカ
「第6回史上最強のクイズ王決定戦」から。クイズ王・西村顕治の伝説的な早押しが発揮された一問であり、早押しクイズの象徴的存在、ミームにもなった一問。早押しクイズとはなにか、というパブリックイメージは、少なからずこの一問に端を発するように思う。テレビクイズを代表する一問。
【クイズ出してよと言われたら】
Q 毎月22日は「ショートケーキの日」と定められています。なぜでしょう? 
ヒント:ショートケーキにはいちごがのっていますよね?
A カレンダーで22日の上には15(いちご)日があるから。
雑学・発想系のクイズ。ヒントまで含めて、知識がない人でも正解にたどり着くことができ、納得感もある。クイズプレーヤーが「何かクイズ出してよ!」と言われた時によく選ぶ一問。速さや知識ばかりがクイズの全てではない。考える楽しさ、新たな知識に巡り合うワクワク、誰かに話したい納得感。こうした感情こそクイズをエンターテインメントたらしめる大切な要素である。


AERA 2021年11月1日号