河野太郎氏(c)朝日新聞社
河野太郎氏(c)朝日新聞社
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 先の自民党総裁選で河野太郎氏は、既存原発の再稼働は認めながらも、核燃サイクルは「なるべく早く手じまいすべきだ」と明言した。脱原発を期待する市民のなかから「現実路線に軌道修正した」と落胆する声があがった一方で、同氏周辺や専門家には「まったく妥協していない」と指摘する声が少なくない。河野氏は敗北し、その政策実現はいったん遠のいたかに見えるが、「核燃サイクル政策はとっくに破綻しており、早晩政府は解決策を迫られる」との見方も強い。10月にも閣議決定される「第6次エネルギー基本計画」はどうなるのか、間近に迫る総選挙では、原発政策で河野氏と共通点も少なくないとみられる野党は、どう攻めるのか――。政府の有識者会議のメンバーとして、原子力政策に長く関わってきた橘川武郎・国際大教授(東大・一橋大名誉教授)に聞いた。

【写真】専門家が「最後に停止する」と述べた原発

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――「核燃サイクル」見直しを訴えた河野太郎氏は、総裁選に敗れました。

 今度の総裁選の結果を見て、資源エネルギー庁や電力業界は、ほっとひと安心したと思います。しかし現政権が短命で終わると、あらためて河野政権が登場する可能性があります。河野さんはまったく妥協していない。本格政権になれば、「原子力ムラ」にとって最悪シナリオになるんじゃないか。

――逆に、甘利明氏が自民党幹事長になるなど、新たな政府与党の体制には原発推進派も目立ちます。10月に閣議決定が予定される「第6次エネルギー基本計画」で、「原発新増設、リプレース(建て替え)」を求めてくる可能性もあるのでは?

 まったくありません。「安倍一強」時代でさえできなかったことが、新政権にできるわけがない。まして総選挙を直後に控えています。経済界には要望が強いが、3.11以来国民のなかに原発への忌避感が強いことは、政府与党も十分感じ取っています。あの原発事故以来、自民党も旧民主党系野党も原発を主要な論点から外しています。原発問題は、票を減らすことはあっても、増やすことはないからです。今後も主要な論点から外され続けるでしょう。野党も、同じことです。

■アンモニア・水素火力が引退勧告

――河野さんが首相になれば、「原発の葬式」がいよいよ始まるはずだった?

 いや、実は「2050年には原発はよくて10%、場合によってはなくていい電源になる」。そうした流れが、今度の首相交代劇の前に、ほぼ固まった、と私は見ています。

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原発はあと50年経てばなくなるということ…