たにあい・ひろき/1994年1月6日生まれ、27歳。2020年、四段昇段。棋風は振り飛車党。現在は東大大学院博士課程に在籍中。著書に『Pythonで理解する統計解析の基礎』。趣味はピアノ(撮影/写真部・東川哲也)
たにあい・ひろき/1994年1月6日生まれ、27歳。2020年、四段昇段。棋風は振り飛車党。現在は東大大学院博士課程に在籍中。著書に『Pythonで理解する統計解析の基礎』。趣味はピアノ(撮影/写真部・東川哲也)

 AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。渡辺明三冠(名人、棋王、王将)、森内俊之九段(十八世名人資格者)、「初代女流名人」の蛸島彰子女流六段、「将棋界初の姉妹女流棋士」の中倉彰子女流二段、「将棋界初の母子棋士」の藤森哲也五段、「中年の星」の木村一基九段に続く7人目は、「東大出身棋士」の谷合廣紀四段です。発売中のAERA 10月11日号に掲載したインタビューのテーマは「私の経歴」。

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 2020年4月。谷合廣紀は棋士の資格を得る四段に昇段した。デビューして現在1年半になる。

「将棋を指して生活できるというのは、素晴らしいことだなと思います。ただやっぱりその分、一局一局責任が生まれる。いい棋譜を作ってお金をいただけるわけなので、ヘタな将棋は指せないと思っています」

 棋風は振り飛車党で、これまでの通算成績は32勝25敗。棋王戦では佐々木勇気七段(27)、三浦弘行九段(47)、広瀬章人八段(34)らの強豪を連破してベスト8に進出した。

「一つぐらい本戦に入るのが目標だったので、それは達成できました」
 谷合は東京大学工学部卒。04年にプロとなった片上大輔七段(法学部卒、40)に続いて、将棋界では2人目の東大出身の男性棋士となる。

「在学中は授業をサボって雀荘に行くみたいなことはザラにありました。大学の成績は、1年の夏学期だけがんばって、そこからどんどん落ちていきました」

 谷合は酒を飲むのも大好き。どこか昔ながらの将棋指しのにおいを漂わせるが、経歴を見ればやはり万能の天才タイプというよりない。奨励会、および東大修士課程在籍中の18年には『Pythonで理解する統計解析の基礎』という専門書も執筆している。

「Python自体はわかりやすいプログラミング言語です。所属研究室がハードウェア寄りだったので、Pythonは全然やってなかったんですけど、それを使ったプログラミングのアルバイトをする機会があって。それから半年か1年ぐらいした頃に本の執筆の依頼をいただきました」

谷合廣紀は「将棋ではなくて、先にコンピューターの本を出すことになりました」。将棋界きってのデジタル派だが、人間同士が向かい合っての対局など、アナログな良さも愛する(撮影/写真部・東川哲也)
谷合廣紀は「将棋ではなくて、先にコンピューターの本を出すことになりました」。将棋界きってのデジタル派だが、人間同士が向かい合っての対局など、アナログな良さも愛する(撮影/写真部・東川哲也)

 19年には自動車技術会主催の自動運転AIチャレンジにチーム代表として参加。2部門で優秀賞を受賞した。

「いまは博士課程で自動車の自動運転や運転事故防止技術などを研究しています」

 今年は、日本取引所グループ(JPX)のコンペティションで上位に入賞した。
「東証一部とかで取引されるデータ(始値、終値、高値、安値、決算短信など)の情報を提供してもらって、システムトレード(シストレ)で今後の株価を予測するコンペです。結局、自動運転にしろなんにしろ、根底では機械学習を使って課題を解決するという意味では同じですね」

(構成/ライター・松本博文)

※4日発売のAERA2021年10月11日号では、谷合廣紀四段がエンジニアとして企業に就職する予定はあるのか、棋士と大学での研究をどう両立させているのかについても紹介しています。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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