新型コロナウイルスのワクチン接種を済ませた人に「パスポート」を発行する議論が進む。経済を回す仕組みとして期待する声がでるが、課題も多い。AERA 2021年9月27日号から。
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「観光客の中にはマスクを着けていない人、お願いしても着けてくれない人もいます」
こう嘆くのは、沖縄県竹富町の観光協会関係者だ。
町は日本の南西端の島々を抱える国内屈指の観光地。赤瓦の伝統的家屋が並ぶ竹富島や、7月に世界自然遺産の登録が決まった西表島には、緊急事態宣言の発出下も多くの観光客が訪れている。
町観光協会と商工会は8月以降、新型コロナウイルスのワクチン接種を確認できる書類や、PCR検査の陰性証明を提示した観光客にステッカーを配布。衣服やマスクに貼ってもらい、「島民に『安心・安全』を知らせてください!」と呼び掛けている。
観光関係者は言う。
「島の診療所には医師1人、看護師も1人だけ。高齢者も多く、モラルが低い観光客と接するのは怖いのが本音です。啓発では限界があり、しっかりしたルールが必要だと思います」
政府は今月9日、希望者のワクチン接種が完了する11月ごろをめどに、緊急事態宣言の対象地域を含め行動制限を緩和する方針を決めた。ワクチンの接種済み証明書や陰性証明を活用する「ワクチン・検査パッケージ」を想定している。
■「賛成派」が半数超す
「感染がおさまらない中で、行動制限を緩和する議論は時期尚早との意見もありますが、経済・医療面で脆弱(ぜいじゃく)な地域を守るためにも、どのように制度設計していくのかは今のうちに検討しておくべきだと思います」
ニッセイ基礎研究所生活研究部の井上智紀主任研究員は、こう指摘する。同研究所が20~74歳を対象に7月に実施したワクチンパスポートの国内利用に関する意識調査では、導入に肯定的な反応が浮かぶ。それによると、「国内でも利用していくとよいが、活用対象については慎重に検討したほうがよい」が30%で最多。「国内でも積極的に活用していくとよい」の25%を含めた“賛成派”が半数超にのぼった。具体的な活用法については、「飲食代金や利用料の割引、ポイントの割り増しが受けられる」「介護施設や医療機関での面会制限が緩和され、直接会えるようになる」といった項目で前向きな回答が目立った。