7月29日、超早碁「新竜星戦」で、井山裕太名人と対局した。10歳でプロになった仲邑菫は、現在中学1年生だ。AERA 2021年8月16日-8月23日合併号から。
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中国と韓国の2強が覇を競う囲碁界で、日本が復権をめざして期待をかけるのは、12歳の少女だ。
7月29日、考慮時間がほとんどない超早碁「第1期新竜星戦」の1回戦、井山裕太名人対仲邑菫二段。公式の戦績に加えないエキシビションマッチだが、会場の日本棋院東京本院には報道陣向けの控室が設けられ、大型モニターに対局の模様が流された。主役は名人ではない。名人より20歳年下の中学1年生、仲邑だ。
■プロ3年目の躍進
ふたりの公開対局は2年半ぶり。先の対局のとき、仲邑はプロ入り前で、日本最強棋士にハンディ戦で挑んだが、今回は対等の真剣勝負で粉砕された。
「お互いプロ同士。仲邑さんというよりは、ひとりの強い相手として対局に臨んだ」
対局後の会見で井山は言った。隣席の仲邑にとっては、最大級の賛辞だったに違いない。
プロ3年目の今年、飛躍を遂げた。すべてが年上の棋士を相手に、8月4日現在、公式戦32勝10敗。一時は24勝2敗、勝率9割超の驚異の数字を挙げた。女流5棋戦の一つ、女流立葵杯では挑戦者決定トーナメントの4強に進み、タイトル挑戦まであと2勝に肉薄した。女流世界戦の呉清源杯は2回戦敗退ながら、1回戦で元世界チャンピオンの金彩瑛六段を破った。
2019年1月5日、棋士を統括する日本棋院は、当時小学4年生、9歳の仲邑を4月1日付でプロに採用すると発表した。会見場にいた私は、現れた身長120センチあまりの少女の棋士像がイメージできず、現実の話とは思えなかった。
史上最年少棋士の誕生をNHKは夜7時のトップニュースで報じ、翌日のワイドショーも競うように取り上げた。第一人者の井山との公開対局が組まれ、警察の一日署長を務めた。ネットメディアは対局ごとに写真つきで結果を報じ、老舗のしょうゆ会社が「菫ちゃん焼肉のたれ」を発売した。