■「この子は強くなる」

 人気先行だったのは否めない。お隣の将棋界では、史上最年少棋士の藤井聡太さんの活躍が爆発的な将棋ブームを巻き起こしていた。人気低迷にあえぐ囲碁界は仲邑を起爆剤にしようとした。最大の眼目は「世界で通用する棋士」の育成だった。前世紀まで囲碁最強国だった日本は、2005年を最後に世界のメジャータイトルから遠ざかり、中国、韓国勢の後塵を拝してきた。

「才能のある子は早いうちにプロの荒波にもまれたほうが開花し、より高いレベルをめざすことができる」。日本棋院の小林覚理事長は、プロ棋士の父、囲碁インストラクターの母を持ち、小学校低学年から修業先の韓国で「天才少女」と騒がれていた仲邑を一本釣りした。

 棋士になるには通常、志願者が総当たりで戦うプロ試験を受け、成績上位に残らなければならない。しかし仲邑は、才能豊かな小学生を無試験で採用する新設の「英才枠」第1号として迎えられた。将来の可能性にかけた異例の措置に、囲碁界は賛否両論が渦巻いた。

 小林理事長は仲邑の対局態度、面構えを見て「この子は強くなる」と確信していた。プロが見ればわかるオーラをまとっていたという。1年目は17勝7敗、2年目は21勝17敗。悪くないが突き抜けてもいない。それが今年に入っての大ブレークで、理事長の確信を証明した。

 身長はデビュー時から20センチ以上伸びた。変わらず囲碁漬けの日々を送る。最近は東京五輪の卓球ニッポンの活躍に励まされた。最強中国に肉薄する選手の姿を、将来の自身の姿と重ねているのかもしれない。(朝日新聞記者・大出公二)

AERA 2021年8月16日号-8月23日合併号

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