コロナ下での強行開催となった東京五輪は、日本勢のメダルラッシュに沸く。しかし、世論は熱狂とは程遠いという。AERA 2021年8月9日号では、五輪後に語り継ぐべき矛盾と葛藤について専門家が語った。
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コロナ下の開催を巡る賛否の間で揺れに揺れた東京五輪。日本は連日のメダルラッシュに沸いている。7月30日現在、日本勢が獲得した金メダルは史上最多の17個。国・地域別で中国に次ぐ2位となっている。日本人最年少の13歳で金メダルを獲得した新競技スケートボードの西矢椛(もみじ)ら新しいスターも次々に誕生した。
27日夜のソフトボール決勝で日本が13年越しの連覇を達成した試合の瞬間最高視聴率(世帯、関東地区)は、46.0%(ビデオリサーチ社調べ)に上った。Googleで検索された回数の目安である「検索トレンド」でも、連日トップ10の大半を五輪関連の語が占める。朝日新聞の5月の調査では五輪を「再び延期」「中止」すべきだとの回答が8割を超えていたが、その「世論」は霧散したように見える。
国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ副会長は4月、「(日本勢の活躍で)世論が変わると自信を持っている」と述べ、政権側の「五輪が始まれば盛り上がる」との見立てもたびたび報じられた。まさに「思惑どおり」の様相だ。
■複雑な二重意識を持つ
だが、関西学院大学の阿部潔教授(メディア・コミュニケーション論)は五輪を巡る空気を「熱狂とは程遠い」と指摘する。
「多くの人はこれでいいとは思っていない。一方で、声を上げて何かが変わる期待もありません。そんなある種の諦め感のなかで、『どうにもならない以上せめて頑張っているアスリートを応援しよう』『少しでも楽しもう』という複雑な二重意識を持っているのだと思います」
これまでも五輪を巡る世論は揺れてきた。NHK放送文化研究所が2016~19年に5回行った世論調査では、東京五輪の開催を肯定的に捉える人がいずれも8割を超えていた。ただし、五輪の理念が支持されたわけではない。阿部教授は言う。