「詳しく調査すると、賛成の大半は『なんだか誇らしい』『景気がよくなるかもしれない』という漠然とした支持でした。国際交流や平和を掲げる五輪はどちらかというと『いいもの』とみなされていて、明確な根拠を持って反対する人以外は『なんとなく賛成』していた。それが賛成8割の正体です」

 一方、コロナ禍によって「このままではマズイ」という意識が優勢となり、「なんとなく賛成」は反対に転じた。だがそれも、根拠を持った明確な反対とは一線を画す。いざ開幕すれば疑問やモヤモヤを感じながらも応援し、日本勢の活躍に沸き立つのは当然だという。

 その結果、「五輪後」には何が残るのか。

■語り継ぐことが必要

 過去の夏季五輪で日本勢が獲得した金メダルは1964年東京大会と04年アテネ大会の16個が最多だった。今後の競技の期待度を加味すると、今大会で記録を大きく更新するのはほぼ確実だ。それは各競技団体の強化の成果だし、選手の努力の賜物(たまもの)であることは間違いない。一方で、その躍進によってこの1年の混乱や人々が感じたモヤモヤが語り継がれない危険性があると阿部教授は懸念する。

「このまま五輪が終われば、後に残るのは『世界的な危機のなかで五輪をやりとおした』ことと、『日本のアスリートは素晴らしい結果を残した』ことの2点だけになってしまうかもしれません。しかし、1年の延期を経て開催された五輪の陰にどんな矛盾や人々の葛藤があったのかをしっかりと記録し、語り継ぐことが必要でしょう」

(編集部・川口穣)

AERA 2021年8月9日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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