出産後は焦りや絶望を感じた時期もありました。夫の成功が嬉しい半面、自分はこのまま終わるのか!と。いまは夫のサポートもあり手探りながら仕事復帰できています。 私は最後の詰めが甘くなりがち。でも夫は完璧主義で自分にも人にも求める水準が高い。私も最後の踏ん張りがきくようになった気がします。


上田慎一郎[37]
映画監督
PANPOCOPINA取締役

うえだ・しんいちろう◆1984年、滋賀県生まれ。滋賀県立長浜高校卒業後、英語の専門学校中退。バイトを転々としながら自主映画を作り続ける。2018年に劇場長編デビュー作「カメラを止めるな!」が動員数220万人突破の社会現象に。妻・ふくだみゆきとの共同監督・脚本による「100日間生きたワニ」が7月9日から公開予定

 僕は20代のころめちゃくちゃストイックだったんです。毎日ノートに「今日達成できたこと」「浪費してしまった時間は○分」などと書き込んで、尖っていて「早くこうなりたい」ばかりを考えて、いやなヤツだったと思います(笑)。結婚したことで、だいぶ人間としてのバランスが取れるようになりました。

 妻の存在は作品にも大きく影響しています。いつもシナリオを読んで「女性はこんなところにこんな服を着ていかない」など意見をくれる。それまでハリボテだった女性像が立体的になったと思います。一緒に仕事をしても構成は僕、絵や表情の機微などは彼女、と得意なところが違うのでぶつかることもないんです。

「カメ止め」の後、僕が忙しくなったとき「私はこのまま生活に埋没していくのか!」と彼女に思いをぶつけられてハッとしました。同じ監督としてつらかっただろうと、気づけていなかった。それからはできるだけ育児を助けて、彼女が監督として仕事ができる環境を工夫しています。

(構成・中村千晶)

AERA 2021年7月12日号