いいねをお返しして、疲れてしまう。これは律義な年配の人に限らない。前出の岡安さんはその心理をこう解説する。

「『いいね』をもらったら、ちゃんとお返ししないと、その人から排除され、仲間外れにされるかも。それはすごく不安ですよね。そこを解消するために『いいね』を返す。この行為も『単に安心するためだけに続ける努力』ですから、ひじょうに疲れてしまうと思います」

■やはり逃れられない

 では、今回のフェイスブックやインスタの措置は、有効なのだろうか。

 岡安さんは懐疑的だ。SNSを使う人が「賞賛獲得欲求」と「拒否回避欲求」を持つ限り、そこにアクセスする際には、自分が安心できる何らかの「結果として生じる好ましい事象」を求めるはずだと言う。

「たとえば『いいね』の機能がなくなれば、それに代わる機能を持つ他のアプリが台頭するかもしれません。また、これまで『いいね』をただ押せばよかったところを、メッセージを書いて相手を承認しないといけなくなれば、もっと疲れる可能性もあるかもしれませんね」

 筑波大学教授で社会学者の土井隆義さん(60)は、今回の対応が「いいね」の表示/非表示を「選択させる」点に注目。「いいね」を見えないように、つまり「自分は『いいね』を求めなくても生きていける」という選択をする人は、「そういう自分だ」ということを、また誰かから承認してもらわないと安心できないのでは、と話す。

「ひとりキャンプ、ひとりカラオケなど『ソロ充』を求める人たちも、1人でキャンプする様子を写真や動画に撮ってインスタグラムにあげたりします。『人と群れなくても1人でこんなに充実している私なんだよ』ということを、周りに認めてもらいたい。実は承認の構図から逃れられてはいないんです」

 同様に、「いいね」の非表示を選択しても、「私はそんなことにとらわれずに充実できている人間だ」ということを周りから承認してもらわないと、それはそれできつくなってくる。そう、土井さんは言う。

「そっと非表示を選択するのではなく、声高に『いいねを非表示にできる私を見て!』が必要になるとか。それもまた、疲れてしまうかもしれませんね」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2021年7月12日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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