プロ野球は楽天が2013年以来のリーグ優勝に向けて好調を維持する。GMも兼ねる石井一久新監督が緻密で繊細な人心掌握術で、個々の能力の高さを生かし切れなかったチームをまとめ上げている。AERA 2021年6月28日号から。
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プロ野球は交流戦を終えた時点で、楽天がパ・リーグの首位に立っている。5年連続日本一を目指すソフトバンク、交流戦優勝を飾ったオリックスにそれぞれ2ゲーム差とシーズン終盤までデッドヒートが続く雰囲気だが、ここまでは合格点をつけられる戦いぶりだろう。スポーツ紙の楽天担当記者は、こう分析する。
「昨年の戦いぶりとガラッと変わって、試合巧者になった感じがします。1点をどう取るか、1点をどう防ぐか。現役(ヤクルト)時代に野村克也監督(当時)の『ID野球』を学んだ石井一久監督兼ゼネラルマネジャー(GM、47)の野球は思った以上に緻密(ちみつ)です」
昨年までの楽天は、個々の能力の高さを生かし切れていない印象があった。
石井監督がGM専任だったときに大型補強を敢行。2018年オフにソフトバンクなどとの争奪戦を制し、西武からフリーエージェント(FA)宣言した浅村栄斗(30)を獲得。19年オフも巨人との一騎打ちで、ロッテからFA権を行使した鈴木大地(31)の補強に成功した。さらに、ロッテから金銭トレードで涌井秀章(35)、大リーグ・パドレス傘下でプレーしていた牧田和久(36)を獲得した。
■接戦に弱かった昨年
その結果、昨年は浅村が32本塁打で自身初の本塁打王、涌井は移籍1年目で最多勝に輝き、鈴木大、牧田も期待に応えた。ドラフト1位の小深田大翔(25)も打率2割8分8厘、3本塁打、17盗塁とリードオフマンとして定着した。
ただ、チームの結果に直結しなかった。当時の三木肇監督(44)の下でシーズン序盤は首位争いを展開したが、中盤から失速して55勝57敗8分け。優勝どころか4位とクライマックスシリーズ進出も逃した。
大量得点で圧勝するが、接戦に弱い。野球が大味だった。好機を作っても得点できず、勝負どころの拙守で失点を許す。勝負弱さはデータに如実に表れていた。逆転負けが両リーグでワーストの32試合、1点差ゲームは11勝15敗と競り負ける試合が多かった。
石井監督が就任した今季は選手に求める野球の質が変わった。安打をいくら打っても得点が相手より下回れば意味がない。次の塁に走者を進める犠打、進塁打を重視し、負けている場面でもヒットエンドランを積極的に使うなど、流れを引き寄せるための策を張り巡らす。