象徴的な試合が6月5日の広島戦(マツダスタジアム)だった。同点の八回に島内宏明(31)の本塁打で勝ち越すと、さらに無死満塁の好機で太田光(24)、村林一輝(23)と連続スクイズを敢行。ともに初球できっちり決めた。プロ野球史上12年ぶりの2者連続スクイズでリードを広げて快勝。球場がどよめいた場面で、石井監督は手をたたいて太田、村林をたたえていた。今季は1点差ゲームが8勝5敗。しぶといチームに生まれ変わりつつある。

■対話を重視する姿勢

 石井監督は、勝っても負けても雰囲気が変わらない。対話を重視する姿勢で選手たちとグラウンドで1対1で話し込む姿が目立つ。楽天の番記者は言う。

「選手たちは、『監督は接しやすいので思っていることを伝えられる』と口をそろえて言いますね。失敗しても感情的になって怒るのではなく、『こうしたほうが良かったんじゃない?』と一緒に考えて助言を送ってくれる。先発で5勝をマークしている瀧中瞭太(26)が好例です。今季初登板のロッテ戦に登板した際に二回途中10失点の大乱調で、石井監督は試合後に厳しい言葉を口にしましたが、翌日にグラウンドで10分以上マンツーマンで話し込み、最後はグータッチで笑顔を見せていました。瀧中は次回登板で西武を7回無失点に抑えて初勝利を挙げ、5月以降は4連勝と期待に応える投球を見せています。石井監督でなければ、KOされた登板後に即2軍に落とされていたかもしれない。ミスには厳しいが失敗してもチャンスは与える。選手の心をつかんで能力を引き出すのが巧いと感じますね」

■大きい田中将大の復帰

 新戦力も大きなプラスアルファをもたらしている。

 8年ぶりに日本球界に復帰した田中将大(32)は今季9試合登板で2勝4敗、防御率2.90。打線の援護に恵まれず白星は伸びていないが、復帰登板となった日本ハム戦(東京ドーム)を除き、8試合で6回以上を投げ切り、7試合で3失点以下に抑えている。24勝0敗をマークした13年は力でねじ伏せる投球スタイルだったが、大リーグでキャリアを積み、多彩な変化球を交えて要所をきっちり締める粘投を続けている。

 スポーツ紙の遊軍記者は、若手の選手たちに波及する「田中効果」を口にする。

「田中がヤンキースに移籍した後に楽天に入団した選手も多かったので、最初は緊張で身構えていた若手も多かったのですが、田中がフランクに接して場の空気を盛り上げてくれるので若手たちも積極的に助言を求めるようになりました。田中のプロ意識の高さは良きお手本です。若手だけではありません。エース同士でしのぎを削り、08年北京五輪やWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で共闘した涌井も田中の加入に大きな刺激を受けています」

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