医療現場では逼迫した状況が続く。体外式膜型人工肺ECMOを使った重症患者を診る医療関係者/5月10日、福岡大学病院 (c)朝日新聞社
医療現場では逼迫した状況が続く。体外式膜型人工肺ECMOを使った重症患者を診る医療関係者/5月10日、福岡大学病院 (c)朝日新聞社
開幕まで100日のイベントで小池百合子・東京都知事(左から2番目)ら (c)朝日新聞社
開幕まで100日のイベントで小池百合子・東京都知事(左から2番目)ら (c)朝日新聞社
全国医師ユニオン代表 植山直人さん/福岡県生まれ。鹿児島大学医学部卒、東北大学大学院修士課程修了(福祉経済学専攻)。医療生協さいたま行田協立診療所勤務(本人提供)
全国医師ユニオン代表 植山直人さん/福岡県生まれ。鹿児島大学医学部卒、東北大学大学院修士課程修了(福祉経済学専攻)。医療生協さいたま行田協立診療所勤務(本人提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、勤務医でつくる労働組合「全国医師ユニオン」が東京五輪・パラリンピックの中止を訴え、国に要請書を提出した。AERA 2021年5月31日号は、代表に医療現場の現状や思いを聞いた。

【写真】五輪開幕まで100日のイベントに出席した小池百合子・東京都知事ら 

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「全国医師ユニオン」は5月13日、東京五輪・パラリンピックの中止を国に求めた。要請に踏み切った経緯について、代表の植山直人さん(63)は「五輪中止は早く決断しないといけない。国の背中を押す必要がある」と考えたと話す。

「インドや日本の第4波など国内外の感染状況を見れば、日本政府もIOC(国際オリンピック委員会)も当然中止の判断をすると思っていました。ところが、菅義偉首相は『選手や関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加できるようにし、国民の命と健康を守る』と繰り返すばかり。ああ、本気でやる気なんだ、と」

 全国医師ユニオンの執行部で議論したところ、全員が「開催できるわけがない」との見解で一致。コロナ治療の最前線で働く医師の団体として、政治的な縛りのない立場の自分たちが最初に声を上げることで他の団体にも広がれば、と考えたという。

「世論の6~8割は五輪の中止や延期を求めています。そんななか、テストイベントや聖火リレーが各地で行われていますが、これらの参加者も複雑な思いを抱いているはずです。五輪開催に不安を感じる人たちの感情が五輪出場選手の辞退要求に向かっていますが、あってはならないことです。国は一刻も早く中止を決断し、国民の命と財産を守るという国の責任をしっかり果たしてほしい」

 中止を求める一番の理由は「変異株ウイルスの脅威」だ。

「私たちが最も深刻な懸念を抱いているのは変異株ウイルスの問題です。新型コロナウイルスはこの1年半の間、世界各地で様々な変異株を生み、感染力や重症化を高める変異株ウイルスが主流になっています」

■世界中の変異株が結集

 大会組織委員会の武藤敏郎事務総長は5月13日、五輪期間中に海外から来日する大会関係者の規模が9万人以下となる見通しを示した。これには参加選手約1万5千人は含まれないため、最大で総勢10万人を超える可能性もある。植山さんは言う。

「五輪中止の要請時には、来日人数の規模は数万人と考えていたので、この数字には驚きました。東京五輪はかつてない規模で、世界中のあらゆる変異株ウイルスの結集と拡散、さらには新たな変異株ウイルスを生む環境を作り出してしまうリスクがあります。ワクチンの効果を弱める変異株を生む懸念もあり、そうなると世界が今、挑んでいるワクチンによる新型コロナとの闘いも水の泡になってしまいます。医師の立場で言えば、人の命と健康を守る観点から五輪開催はやってはならないと考えています」

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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