行政改革担当相 河野太郎(58) (c)朝日新聞社
行政改革担当相 河野太郎(58) (c)朝日新聞社
AERA 2021年5月17日号より
AERA 2021年5月17日号より

 ワクチン接種が進まない中、菅義偉首相が突如として1日1万人接種できる大規模会場を設置する計画を発表した。各省庁に混乱や困惑が生じている。AERA 2021年5月17日号から。

【図】菅氏とポスト菅の発言は?

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「できる、できないじゃない。やるしかないんだ」

 菅義偉首相の側近の一人が、コロナ対策に関わる関係省庁の事務方を前に、こうまくしたてた。それは、遅々として進まない新型コロナウイルスワクチンの接種状況に業を煮やしたのか菅首相が突然、「1日1万人接種できる大規模会場を東京と大阪に設置する計画」を発表した直後の会合だった。

■3連敗後の大規模接種

 この計画がマスコミにリークされたのが4月25日。この日は、北海道、長野、広島で行われた二つの補欠選挙と再選挙の投票日だった。事実上(北海道2区には自民党は候補者を擁立していない)、自民党は立憲民主党と野党統一候補に全て敗北。総選挙、東京都議選を目前に控える菅政権にとって、この「3タテ」は大変な痛手だった。そこで政権浮揚の一手で官邸がぶち上げたのが同計画だったと見る人は永田町には少なくない。事前に何も聞かされていなかった関係省庁の幹部は動揺を隠せなかった。

「都内に大規模接種センターまでつくる話が『案』ではなく具体的な『計画』として決定されていた。各省庁への根回しは一切なし。医療従事者への接種さえ全国で滞っているのに、どうやって実現するのか」(厚生労働省幹部)

 ゴールデンウィーク終盤、今度はワクチン接種に関して当事者のはずの河野太郎・新型コロナウイルスワクチン接種推進担当相はテレビでこう発言した。

「1万人になるかどうかは自衛隊の検討次第だと思います」

 この計画の成功の可否は自衛隊にかかっているというのだ。自衛隊には全国の陸・海・空自に医官と呼ばれる医師の資格を持つ自衛官がいる。しかし、その全てをこの計画に動員するのはそもそも困難だ。ワクチン接種は自衛隊の本来業務ではない上、これら医官は有事や災害派遣に備える必要がある。彼らが勤務する病院の日常業務もある。昨年、横浜に寄港した大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号でクラスターが発生した時、自衛隊が乗り込まざるを得なかったが、主たる任務を担ったのは医官ではなかった。派遣の根拠は「自衛隊法に基づく災害派遣」だった。河野氏は防衛相経験者でもあるので、この計画を自衛隊が主導する難しさを誰よりも知っているはずだ。河野氏に先立ち、岸信夫防衛相はテレビ番組で「最初から100%というのは難しいかもしれない」と官邸を牽制(けんせい)した。

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