AERA 2021年1月11日号より
AERA 2021年1月11日号より

 2020年の将棋界は藤井聡太二冠(18)の話題に沸いたが、すでに新たな才能も注目され始めている。関西奨励会所属の山下数毅君(12)は、小学6年生にして初段に昇格した、「ポスト藤井」と目される存在。小6で初段になったのは藤井二冠、豊島竜王ら過去に数人しかおらず、傑出した才能の持主だと言える。

【「ポスト藤井」とも目される 山下数毅君の写真はこちら】

 村山聖九段や糸谷哲郎八段(32)らトップ棋士を多数育てた森信雄七段(68)の門下生として学んでいるが、師匠の森七段は山下君に期待を寄せつつも「甘い世界ではない」と語る。その理由は、将棋界のあまりに過酷なピラミッドにある。AERA 2021年1月11日号の記事を紹介する。

■過酷すぎるピラミッド

 山下君が戦う奨励会は、正式名を「新進棋士奨励会」という。6級から始まるピラミッドを駆け上らなければ、プロの道は拓けない。

 二段までは関東と関西に分かれて戦い、三段に昇格すると東西合わせた半年間のリーグ戦でしのぎを削る。四段以上が、正式に「棋士」と呼ばれるプロ。だが四段に昇格できるのは三段リーグの上位2人、つまり毎年4人に過ぎず、26歳という年齢制限もある。

 そもそも、奨励会に入ること自体が極めて狭き門だ。小中学生の全国大会優勝者クラスは1次試験を免除されるが、基本的に師匠(棋士)が実力を認めて推薦したり、下部組織の研修会(関東、関西、東海、九州、北海道)で好成績を収めたりしないと受験すら叶わない。

 入会試験は例年、8月に3日間かけて行い、2日間かけて受験者同士が対局で潰し合う1次試験を突破すると、面接などの2次試験に進めるが、ここで現役の奨励会員と対局して勝てないと合格できない。

 この難関をくぐり抜けた精鋭同士が戦い、篩(ふるい)から落とされずに昇級を繰り返す難しさについて、将棋ライターの松本博文さんはこう語る。

「奨励会入会の難易度は東京大学合格と同程度のイメージです。毎年東西合わせて20人前後が入会、そのうち三段リーグを抜けるのが毎年4人。東大生が必死に競い合って5人に1人しか卒業できないような、厳しい世界だと思ってもらって間違いないでしょう」

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