国立歴史民俗博物館で開催中の「性差(ジェンダー)の日本史」展が話題だ。「売春は女性最古の職業」は本当なのか。AERA 2020年11月30日号では、「性の売買と社会」を軸に同展覧会を紹介する。
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時の流れに浮かんでは消える無数の事実を指す「歴」と、それを文字で記した「史」。日本列島の長い歴史の中で、「歴」として存在しながら「史」に記録されることが少なかった女性たちの姿を掘り起こす展覧会「性差(ジェンダー)の日本史」展が千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館で開催中(12月6日まで)だ。
男女の区分とその変容を考える、日本で初めての歴史展示だ。古代から現代に至る歴史について、「政治空間における男女」「仕事とくらしのなかのジェンダー」「性の売買と社会」の三つのテーマを軸に、7章で読み解いていく。280点以上の資料と詳細な解説には、重要文化財や初展示の史料も含まれている。
■自立していた遊女たち
多面的な展示の中から「6章 性の売買と社会」に絞って紹介すべく、展示代表の国立歴史民俗博物館研究部・横山百合子教授に話を聞いた。
「近年の研究によると、古代社会では男女の結びつきが緩やかで、職業としての売春が生まれたのは9世紀後半ごろだとわかってきました。『売春は最古の職業』ではないわけです。彼女たちの前身は遊行女婦(ゆうこうじょふ)などと呼ばれる専門歌人で、地方の役所などで催される宴会で和歌を詠み、時に男性貴族と性的な交渉を持っていました。一夫一婦制が強化される中で、婚姻と区別される売買春の概念が生まれると、彼女たちは『遊女』と呼ばれるようになったのです」
中世の遊女たちは芸能者として自立し、売春に限らず、宿泊業者の側面を持つなどいろいろな生業を複合的に営んでいた。個人経営者として「遊女の家」を女系で継承しつつ、遊女の集団を形成していった。
「中世の遊女たちは社会の一員として、差別を受けることなく、様々な階層の人びとと関係を結びながら生活していました。例えば鎌倉時代中期、駿河国の傀儡子(くぐつ・遊女の一種)たちが生活を守るために、地域の人びととともに荘園の預所(あずかりどころ・荘官)の非法行為を幕府に訴え、全面勝訴した事例はよく知られています」