AERA 2020年11月30日号より
AERA 2020年11月30日号より

「学術会議任命拒否」問題一色となった予算委員会。そこでの菅首相の答弁に与野党から 批判や不安の声が上がる。今後の答弁が解散時期に影響を与えるかもしれない。AERA 2020年11月30日号から。

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 議員宿舎のエレベーター前でばったり会った時の権力者は、とても疲れている様子だったという。「総理大臣の職はいかがですか?」。そう菅義偉首相(71)に声をかけたのは、これまで社民党時代を含めて歴代8人の首相と論戦を交わしてきた立憲民主党の辻元清美・衆議院予算委筆頭理事(60)。質問に菅首相は笑いながらこう返したそうだ。

「官房長官の方が忙しかった。国対もあったし」

 そして、こうポロリと本音を漏らしたという。

「外交とかまだ慣れないところがあるかなぁ……」

■小渕首相に似ている

 辻元氏と菅首相は当選同期で、世襲ではない、たたき上げの国会議員同士。首相になっても偉そうにするそぶりは感じなかった、と辻元氏はその会話を振り返る。自分の意見とは異なる有権者を指して「こんな人たち」と言い放ち、国会では質問者に平気で野次(やじ)を飛ばす安倍晋三・前首相と対峙(たいじ)した時のような不快感はないそうだ。

「案外、菅さんは素直なところがあって、本音をポロッとおっしゃることがある。だから、私は嫌いにはなれないんです。似ているといえば、お亡くなりになった小渕恵三首相ですかね」

 菅政権発足後、初めての予算委員会は「学術会議任命拒否」の問題一色だった。まるで壊れたレコードのように、事務方が書いた答弁書通りの発言を繰り返す態度は、安全運転に徹するという官邸の作戦だ。

 菅首相の答弁の特徴は、自らの「国家観」についての言及が少ないことだ。これも安倍前首相とは対照的だ。ある自民党議員はこう不満を漏らす。

「安倍政権の政策の一丁目一番地は憲法改正。これは自民党の党是でもあり、良い悪いは別にして国民にも分かりやすい。ただ、菅政権は一体、どんな国を目指そうとしているのか、よく分からない。実利主義はともかく、予算委員会の限られた時間の中で力説されるのは、ケータイ料金を下げる、判子やファクスを無くす、とか。これが改革だと言われても、いまいちピンとこない」

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