夫のお墓参りに行く桃子さん(田中裕子)の背中を「寂しさ1、2、3」らが押していく。映画「おらおらでひとりいぐも」は11月6日公開 (c)2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
夫のお墓参りに行く桃子さん(田中裕子)の背中を「寂しさ1、2、3」らが押していく。映画「おらおらでひとりいぐも」は11月6日公開 (c)2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
宮藤官九郎(くどう・かんくろう、左):1970年、宮城県生まれ。脚本を提供する「ねずみの三銃士」企画公演の第4弾「獣道一直線!!!」に、俳優として初出演。東京公演を終え、11月5日から全国巡回/若竹千佐子(わかたけ・ちさこ):1954年、岩手県生まれ。55歳で夫が死去、悲しみの中、息子の勧めで小説講座に。『おらおらでひとりいぐも』(河出文庫)で2017年に文藝賞、18年に芥川賞を受賞 (c)朝日新聞社
宮藤官九郎(くどう・かんくろう、左):1970年、宮城県生まれ。脚本を提供する「ねずみの三銃士」企画公演の第4弾「獣道一直線!!!」に、俳優として初出演。東京公演を終え、11月5日から全国巡回/若竹千佐子(わかたけ・ちさこ):1954年、岩手県生まれ。55歳で夫が死去、悲しみの中、息子の勧めで小説講座に。『おらおらでひとりいぐも』(河出文庫)で2017年に文藝賞、18年に芥川賞を受賞 (c)朝日新聞社

 芥川賞受賞作『おらおらでひとりいぐも』が映画化される。カギになるのは東北弁。原作者の若竹千佐子さんと、主人公の「心の声=寂しさ」を演じた宮藤官九郎さんが語り合った。AERA 2020年11月9日号に掲載された記事を紹介する。

【宮藤官九郎さんと若竹千佐子さんの写真はこちら】

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 75歳の桃子さん(田中裕子)は夫を亡くし、一人暮らし。図書館と病院に行くだけの毎日に、突然、自分の分身が現れる。原作では桃子さんの思考が東北弁で重なり合うが、映画では「寂しさ」と名付けられた3人の分身に。宮藤さんは演じた3人の中で、唯一の東北出身だった。

宮藤官九郎(以下、宮藤):最初に原作を読ませていただいて、自分たちがしゃべっていた話し言葉が活字になっている、すごいな、字で読むとこういう感じなんだ、と思いました。あれは、岩手で話していた言葉ですか?

若竹千佐子:そうです。私の子どもの頃は、「おら」「おめ」で。

宮藤:実家は宮城ですが、自転車で5分走ったら岩手県という所で。岩手はどちらですか?

若竹:遠野です。私は、方言がなくなるのが嫌だと思っていて。

宮藤:映画なんかでも「この東北弁、違う」というのが気になっちゃうと内容が入ってこない(笑)。東北弁って、濁点が付いていればいいってもんじゃないですよね。

若竹:そうです、そうです。だから宮藤さんの朝ドラ「あまちゃん」が大好きで。木野花さんや渡辺えりさんは、隣のおばちゃんがしゃべってるようでした。

宮藤:木野さんは青森、渡辺さんは山形。東北出身なので、うまいんだと思います。

■強すぎる言葉ソフトに

若竹:私、宮藤さんと会うことになって、それなら東北弁でしゃべろうって思ったんです。

宮藤:あ、はい、お願いします(笑)。原作は、実は深刻な話なのに、シリアスにならずに読めました。それが東北弁を使った狙いなのかなと思ったんですけど。

若竹:私は笑いというものが、すごく大事なものだと思っていて。悲しみのながに、あ、ながに、って言ってしまった。

宮藤:大丈夫ですよ(笑)。

若竹:悲しみの中に、笑いがある。悲しみより劣った感情のように思われがちだけど、笑いの中の強さみたいなものを表現したいと思ったんです。それをおらは、書きたかったっす(笑)。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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