■小道具一つひとつまで

 犯人グループは食品会社社長の誘拐を皮切りに、スーパーの陳列棚の商品に毒物を混入するなどして複数の食品会社を脅迫。身代金の要求を繰り返したほか、ミステリー映画さながらに新聞社に挑戦状を送り付けるなどして、社会を騒然とさせた。

 ところがその後、犯人グループは身代金を受け取らないまま、突如として事件の終結を宣言。結局、被疑者不詳のまま、事件は時効を迎える。作中に登場する大日新聞記者の阿久津は、この未解決事件を追う特別企画班に選ばれ、当時の関係者への聞き込みを命じられる。

小栗:僕は原作を読んで、阿久津というキャラクターには塩田さんの血が色濃く流れていると感じたんですよ。それで撮影が始まって少ししてから、塩田さんと食事をご一緒させていただいて、新聞記者時代の話を聞かせてもらったりしました。そこで聞いた体験談や塩田さんの人となりが、阿久津ににじみ出ればいいな、と。

塩田:物語の中で、阿久津が犯人の手がかりを求めてイギリスのヨークという街に取材に行くシーンがあるんです。やっぱり、小栗さんが歩くとかっこいいんですよ。ヨークの美しい街並みを背景にしても負けない存在感があって、そんなところは記者時代の私とはまったく違いましたね(笑)。

 新聞記者である阿久津と並行する形で、星野演じる曽根もテーラーの仕事を続けながら、テープに残された自分を含む「3人の子どもたちの声」の秘密に迫っていく。演じる際は、テーラーから醸し出される「凛とした佇まい」を意識したという。

星野:撮影現場では、数時間でしたが、本物のテーラーの方から作業内容を習うことができました。自宅でその動画を見ながら、ダイニングテーブルの上に型紙を広げて、チョークで寸法を書く練習もしました。布地にアイロンをかけるシーンは、服のシワを伸ばしていく気持ち良さが画面から伝わるといいですね。そしてとにかく、セットがリアルですごい。

塩田:試写を観たとき、小道具の一つひとつまですごく気を使って再現しているのがわかりました。観た瞬間、これは半端じゃないと思いましたね。

星野:曽根が店主を務めるテーラーのお店は、実際に京都の空き地にセットを建てたんです。

小栗:セットじゃなくて、現実にあるお店で撮影させてもらったような感じがするよね。

星野:もう、ロケに行ったんじゃないかってくらい。感動して、めちゃめちゃ写真を撮っちゃった(笑)。

(ライター・澤田憲)

塩田武士(しおた・たけし)/1979年、兵庫県生まれ。小説家。2010年に『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞し作家デビュー。『罪の声』で第7回山田風太郎賞、『歪んだ波紋』で第40回吉川英治文学新人賞を受賞。21年には『騙し絵の牙』も映画化される

小栗旬(おぐり・しゅん)/1982年、東京都生まれ。俳優。10代から多くのドラマ・映画に出演しているほか、蜷川幸雄演出の舞台にも数多く主演。公開待機作に映画「新解釈・三國志」「Godzilla vs. Kong(原題)」。2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に主演することが決まっている

星野源(ほしの・げん)/1981年、埼玉県生まれ。音楽家・俳優・文筆家。ソロデビュー10周年を迎え、10月21日にシングル・ボックス「Gen Hoshino Singles Box “GRATITUDE”」を発売。2021年1月には新春スペシャルドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」が放送される

AERA 2020年11月2日号より抜粋