矢野医師によると、レムデシビルと抗体カクテルはウイルスの増殖を抑えるため、デキサメタゾンは炎症反応を防ぐために使われる。今回は、レムデシビルと抗体カクテルを早期に投与してウイルスの増殖を抑え、炎症が引き起こされないようにしながら、デキサメタゾンで既に始まっている炎症を何とか抑え込むようにしたと思われる。

「レムデシビルと抗体カクテルをハイリスク患者で既に肺炎を合併している患者に早期に使用するという戦略なので適切と思う」と矢野医師。日本では新型コロナでの抗体カクテルの使用例はないという。

■司令塔のはずが感染源

 濃厚接触者を探すうえで重要な感染時期について、医師団は明確にしていない。これについての矢野医師の見解はこうだ。

「10月2日に高熱と酸素濃度の低下があり、その日を発症日とすると、潜伏期を5~6日程度にした場合の感染時期は9月26日の最高裁判事指名のころと推定される。潜伏期は2~14日と幅広いが、最も多いのが5~6日。しかし、発症後5日程度で呼吸苦が出てくるのが通常なので、発症日と感染日はもっと前だった可能性はある」

 最高裁判事指名の発表の会場は、座席が密に置かれたホワイトハウスのローズガーデンで、出席者約150人の大半がマスク未着用だった。大統領夫妻やコンウェイ元大統領上級顧問ら10人以上が感染した。不在だった大統領最側近のヒックス氏らの陽性も判明した。

 コロナ感染者760万人超、死者21万人超で世界最多の米国だが、感染防止策の司令塔となるべきホワイトハウスがクラスター化する最悪の状況に陥っている。仮に感染が9月26日前後だったとすると、その後に行われた民主党バイデン大統領候補との討論会や、ニュージャージー州などでの選挙資金集会の出席者にも濃厚接触者がいる可能性がある。

 米疾病対策センター(CDC)は、接触者の追跡に向けてホワイトハウスの調査をする意向だが、大統領側が受け入れていないというから驚く。(朝日新聞GLOBE編集部・山本大輔)

AERA 2020年10月19日号より抜粋