これをデータで証明したのが、能勢さんらのグループの研究だ。1日1万歩の普通歩きをしたグループの5カ月後の筋力・持久力のアップ率は、何もしなかったグループとほとんど変わらなかった。ところが、1日約52分、速歩きとゆっくり歩きを交互に行ったグループは、ハムストリングの筋力が約17%、大腿四頭筋の筋力が約13%、持久力の指標である最高酸素消費量が約10%向上した。体力年齢でいうと10歳若返ったことになるという。

 なぜ、速歩きとゆっくり歩きなのか。実は当初は被験者に「30分連続の速歩き」をリクエストした。ところがほとんどの人が「きつい」「面白くない」という理由で、実行してくれなかったのだという。

「きつい運動をすると筋肉に乳酸がたまって息切れや筋肉痛を引き起こします。しかしそこに2~3分のゆっくりとした運動を挟むことで乳酸が代謝され、再びきつい運動が可能になるのです」(能勢さん)

 この歩き方は持久力を鍛える有酸素運動と、筋力をアップさせる無酸素運動の両方の効果があるとされ、「インターバル速歩」として注目を浴びている。速歩き3分、普通歩き3分を交互に繰り返すだけの簡単な方法だ。速歩きの目安となるのは歩行の場合、「ちょっときつい」と感じるが、隣に人がいたら会話ができる程度。より正確に知りたい場合は、心拍数を目安にするとよい。

 まずはこれを1日30分以上、週に4日以上続けることが目標となる。約9千人のエビデンスに基づく研究報告では、1週間で「汗をかきやすくなる」、2週間で「肥満傾向の人が体重の減少を自覚」、5カ月で「高血圧・高血糖・肥満の症状が20%改善」といった効果が報告されているという。

 多くの効果が得られるのには理由がある。鍵は細胞に存在し、エネルギーを生み出す源となるミトコンドリアという小器官だ。

 体力は20代早々にピークを迎え、30歳以降は10歳ごとに5~10%ずつ落ちていくが、同時にミトコンドリアも減少し、その機能も低下する。ミトコンドリアの機能が低下すると、組織を傷害する活性酸素が産生され、それに反応して、「炎症性サイトカイン」という物質が分泌されて、体内のさまざまな場所で炎症反応が引き起こされる。これが血管内皮細胞で起きると動脈硬化や高血圧に、脳細胞で起きると認知症やうつ病に、免疫細胞で起きるとがんになると、最近の研究で指摘されている。筋力や持久力が上がるとミトコンドリアの量が増え、活性化することがわかっている。

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