翁長雄志前知事の沖縄県民葬で弔辞を読む菅氏。会場から「何で来た!」「恥を知れ!」などと罵声を浴びた/2018年10月9日 (c)朝日新聞社
翁長雄志前知事の沖縄県民葬で弔辞を読む菅氏。会場から「何で来た!」「恥を知れ!」などと罵声を浴びた/2018年10月9日 (c)朝日新聞社

 菅義偉政権が発足した。「令和おじさん」として親しまれ、その手堅い仕事ぶりに期待も高まっている中、強権的な一面も垣間見える。特にそれがはっきり見えたのが、沖縄・米軍基地問題への対応だ。AERA 2020年9月28日号の記事を紹介する。

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「官房長官時代の菅さんの政治手法が凝縮する形で投影されたのが沖縄だった」と語るのは上智大学の宮城大蔵教授だ。

 菅氏は2013年12月、都内の病院に入院した沖縄県の仲井真弘多知事とひそかに面談を重ね、沖縄関係予算の確保などと引き換えに、辺野古新基地建設の埋め立て承認を取り付けた。

■水面下で手練手管駆使

 この政治手法は「劇場型政治」と評された小泉純一郎元首相の「真逆」と捉えればわかりやすい。国会や記者会見といった公の場で印象に残る言葉で語りかけ、国民の理解や共感をてこに政策を推進した小泉氏。一方、菅氏は「水面下で手練手管を駆使して解決を図るのが政治だと考えているのではないか」と宮城さんは言う。

 菅氏のもう一つの特徴が、相容れない相手を露骨に毛嫌いする姿勢だ。東京新聞の望月衣塑子記者しかり、最近では小池百合子都知事もしかりだ。その第1号ともいえるのが沖縄県の故・翁長雄志前知事だった、と宮城さんはみる。

 翁長前知事はメディアの前で菅氏と面談し、辺野古移設作業を「粛々と進める」と繰り返す菅氏に「問答無用という姿勢が感じられる」などと直言した。

「裏で話をつけて進めるのが政治だと思っている菅さんにとって、これは耐えがたい屈辱だったはずです」(宮城さん)

 霞が関であれば人事で官僚の入れ替えは利くが、沖縄県との関係はそうはいかない。

「そこで菅さんが取った手法が、知事選で自民党の候補を勝たせることで政治的打開を図る手法でした。その結果、沖縄に分断を持ち込みました」

 宮城さんはこう釘をさす。

「この先、十数年以上かかる辺野古新基地建設に固執し、自分の任期のうちに『やっている感じ』を醸すだけでは、『保守』を自任する首相として国の過去と未来への責任感が欠落していると言わざるを得ません」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年9月28日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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