ワクチン開発は進む/5月、大阪大学(c)朝日新聞社
ワクチン開発は進む/5月、大阪大学(c)朝日新聞社

「来年前半までに全国民に提供できる数量を確保することを目指す」とワクチンについて説明した安倍晋三首相。各国で次々と開発が進むが、日本国内においてはかつてのパンデミックの「抵抗」も頭をよぎる。AERA 2020年9月7日号では、ワクチンについて専門家らに取材した。

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 すでにロシア政府が8月、世界初の承認にこぎつけたが、第3相試験を終えておらず、手続き自体に不安が残る。中国でも7月から最前線に立つ医師らに実験中のワクチンを投与し始めているとCNNなどが報じた。日本ワクチン学会理事長を務める福岡看護大学の岡田賢司教授はこうした前のめりの開発を不安視するが、日本ではどうなるか。

 厚生労働省の元医系技官で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)で承認手続きの経験も持つ重藤和弘・長崎大教授はこう話す。

「PMDAと米食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)の3極は常に審査の基準などについて協議や調整をしています。日頃のコミュニケーションがあるので、欧米で承認された医薬品であれば日本での審査も円滑に進むと思われます。ですから、海外からの輸入であれば、恐らく欧米からになるはずです。そこで判断されるのは、科学的な妥当性だけで、政治判断もあり得ません」

 日本政府は、英製薬大手アストラゼネカなどが手がけるワクチン候補について、1億2千万回分の供給を受けることで8月に基本合意。米ファイザーからも6千万人分の供給を受ける合意を取り付けている。

 ニッセイ基礎研究所(東京都)の篠原拓也主席研究員は、こう注文をつける。

「可能性があるところにはできるだけ広くアプローチするべきです。開発しても、全てがうまくいくわけではありません。いろんな種類のワクチンをポートフォリオのように持っておき、使い分けるくらいのことを考えておくべきです」

 ただ、接種に向けた準備は、そう簡単な話ではないようだ。

 外科医で参議院議員の足立信也氏(国民民主党)は、2009年9月に民主党政権が発足した後、厚労政務官として当時すでに世界的大流行(パンデミック)を起こしていた新型インフルエンザの対策を担当した。当時をこう振り返る。

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