「外からは見えにくいけれど家族はいろんな問題を持っている。そのなかで日々違和感を持っている誰かにこの本が届けばいいな、と思います」

 父は2014年に73歳で亡くなった。ふと父が母に作らせていた独特な弁当を思い出す。当時は恥ずかしかったが、いま取材先で出会ったら、小躍りするほどおもしろがったはずだ。年を重ねて、ようやくわかったことは多い。

「この本を一番読んでもらいたかったのはやはり母でした。正直、特別な反応はなかったんです。でも娘に『よかったよ』と言われて救われた気がしました。結局、人は身内に『自分をわかってもらいたい』と思っているんだな、って」

 表紙に写る娘さんに、その思いはたしかに届いたようだ。(フリーランス記者・中村千晶)

■HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんオススメの一冊
小説『ただいま神様当番』は、“少ししんどい”私たちに贈る、神様との五つの物語。HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 毎朝バス停で顔を合わせる、まったく知らないわけではないけれど、挨拶(あいさつ)するほどでもない5人。彼らにひとりずつ主人公の順番が回ってくるような、五つの物語だ。

 目印は、腕の「神様当番」という文字。いつの間に書かれたのか、どうやっても消えない。そして見知らぬお爺(じい)さんが部屋に現れて、こう言うのだ。「お当番さん、みーつけた!」。ジャージ姿だが、神様である。彼の願いごとを叶えてやらなければ、当番は終わらない。

 小学生の千帆には「最高の弟が欲しい」とだだをこねた。それは千帆だって欲しい。バカで下品な弟に苛立(いらだ)っていた。OLの咲良には「楽しませてほしい」と無理を言う。咲良だって、楽しいことが何もない日々を抜け出したかった。神様当番の文字が消えるとき、主人公はほんの少しだけ、何かを叶えている。

AERA 2020年8月31日号より