WTOのアゼベド事務局長(左)の表敬訪問を受け、握手を交わす安倍晋三首相/2018年11月8日、首相官邸で (c)朝日新聞社
WTOのアゼベド事務局長(左)の表敬訪問を受け、握手を交わす安倍晋三首相/2018年11月8日、首相官邸で (c)朝日新聞社

 輸出管理措置をめぐりWTOで争う日韓。そのWTOトップ選挙で、韓国は自国の候補者を擁立したが、日本は別候補を支持。再び対立が鮮明になった。AERA 2020年8月10日-17日合併号の記事を紹介する。

【図】「日本には負けられない」アンケートで明らかになった韓国の本音

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 世界貿易機関(WTO)は7月8日、アゼベド事務局長(ブラジル)が8月末に退任することに伴う次期事務局長(任期4年)選挙に、ナイジェリアや英国、メキシコなどから計8人が立候補したと発表した。この選挙を巡り、またまた暗い日韓関係の一端が浮き彫りになった。

 韓国の兪明希(ユミョンヒ)産業通商資源省通商交渉本部長が立候補したことが発端だった。兪氏は16日、スイス・ジュネーブのWTO本部での記者会見で、日本の支持に期待を寄せた。だが、日本政府関係者によれば、日本はナイジェリアが擁立したヌコジ・オコンジョイウェアラ氏を支持する方針だ。

 日本でこうした動きが報じられると、韓国メディアは一斉に「わざと反対する日本」(ヘラルド経済)、「韓国よりアフリカ」(韓国経済)、「日、兪明希に反対し、アフリカ候補支持」(世界日報)などと報道した。

 韓国側の反応に日本政府関係者らは戸惑いを隠せない。関係者の一人は「我々が重視するのは二つだけ。日本と利害関係が衝突しないかどうか、WTO改革ができるかどうか、という点だけだ」と語る。WTOは、その紛争解決手続きに強い不満を持つトランプ米政権の抵抗に遭い、昨年12月から紛争処理制度の最終審に当たる上級委員会が機能を停止してしまった。

 その点、ナイジェリアのオコンジョイウェアラ氏は財務相、外相を歴任し、世界銀行のナンバー2も務めた。別の日本政府関係者は「政治経験がないとWTO改革はできない。オコンジョイウェアラ氏はワシントンでも知名度がある。ナイジェリアは日本と貿易上の対立もない」と説明する。

 そして、「兪氏は官僚出身で、改革を引っ張っていけないだろう」と語る。韓国は日本による輸出管理措置を不満としてWTOに提訴してもいる。日本政府に言わせれば、兪氏を支持する合理性が全くないというわけだ。「そもそも、兪氏は本命候補じゃないでしょう」とも語る。

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