自身は「若い頃のような勢いはないので『のんびり書けばいいかな』と思っていた」という。

「そこへ『文学界』から前触れもなく声がかかって、昔の野心のようなものをふっと思い出しまして。『40年前には時代に合わなくて通用しなかった表現でも、今、力を尽くしてやってみて評価されることがあるのかな』と頑張ったのが『飛ぶ孔雀』なんです」

 作品は広く受け入れられ、女性たちに愛される。人形作家・中川多理さんもその一人。掌編「小鳥たち」から物語に登場する「小鳥の侍女」たちを制作。その作品を見た山尾さんが新作を書き、さらに新しい人形を作る──と、ジャンルを超えたコラボレーションが実現。美しい本『小鳥たち』に結実した。

「今、女性たちが活躍しているのは嬉しいですね。40年前はとにかく男性しかいなかったんですよ。作品を認めてくれたのも男なら、否定してきたのも男。足を引っ張ったのも男なら、助けてくれたのも男でした。SF畑では私のあとに中島梓さんなどが活躍しましたが、彼女たちもきっと苦労したのでは」と、微笑む。

「精いっぱい書いた『飛ぶ孔雀』が評価されたのはありがたいのですが、自分としてはまだ力が足りていなかった。もうちょっと上の段階まで行きたい、行けるんじゃないか──そう思っています」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2020年8月3日号