十数年の休筆期間を経て、復活を遂げた作家・山尾悠子さん。世界を幻想的に描いた『飛ぶ孔雀』は次々に賞を受賞。AERA 2020年8月3日号では、山尾さんが時代の変化と女性作家が活躍する今について語ります。
【直木賞史上初。候補者全員女性という出来事からみる「時代の変化」】
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山尾悠子さん(65)の連作長編『飛ぶ孔雀』は「火が燃え難くなった世界」を、卓越したイメージで描き出した。刊行されるや話題となり、泉鏡花文学賞、日本SF大賞、芸術選奨文部科学大臣賞を次々に受賞した。
山尾さんのデビューは1975年。以来、寡作ではあるものの読者から熱望される作品を書いていたが、85年ごろから99年に至る長い休業期間に入る。本人の意思とは別に「結婚して家庭に入り、廃業した」との噂が流れたからだ。書いて発表する場を失った山尾さんは「幻の作家」とも呼ばれてきた。
休筆からの復活、また近年の活躍について、山尾さんに話を聞いた。
「若い頃はたまたま縁があって、SFというジャンルで書いていて、復帰してからは国書刊行会から幻想文学の読者に向けて、美しい装丁で本を出していただいた。『飛ぶ孔雀』が出ることになったのは、『文学界』から『書いてみませんか』と爆弾のようなお電話をいただいたからです」(山尾さん、以下同)
「文学界」からの依頼は驚きだった。20代初めの頃、とある純文学の雑誌に渡した原稿を「あまり感心しません」と返された経験があったからだ。
「私がSF雑誌に書いた短編を安部公房さんが気に入って、編集部を紹介してくださったんです。でも当時の純文学は私小説が全盛で、私などはお呼びでなかった」
88年になると、長野まゆみさんが『少年アリス』でデビューする。私小説とは一線を画する作品世界だった。
「長野さんがデビューしたときに、時代が変わってきたんだな、と思いました。ここ20年くらいは女性作家の活躍がすごいですよね。女性たちのほうがよほど奔放な想像力を使って、自由に創作をなさっている。良い世の中になったというか、私などは喜んで『もっとやれ』なんて思っているんです(笑)」